ビジネス

2020.07.20

受けた恩を起業家たちへ 現役の経営者たちがハンズオン支援する集団「HandsOn」

HandsOn代表取締役CEOを務める中野賀通(弟)


その2人が共同で会社を立ち上げた背景には、父親と叔父の存在が大きく影響している。

兄弟の実家はかつて、東京中野で自転車屋を営んでいた。日本が高度成長期を迎える中で交通手段としてバイクが普及し始めていた時期でもあったため、2代目社長である父親を中心に店も盛りあがっていたという。

しかし、自動車の普及やバブル崩壊などが重なり、徐々に経営状況が悪化。気づけば億単位の借金を抱えるようになり、借金取りが自宅に詰めかけ、一家離散の寸前まで追い込まれたこともあった。

そんな時に借金を肩代わりし、家族を救ってくれたのが、兄弟の叔父にあたる存在だっだ。それを機に二人は、それぞれが叔父に人生のアドバイスを求めるようになる。


HandsOn代表取締役COOの中野裕哲

「これは後で知ったのですが、兄弟で言われたことが全く違ったんです。自分はなんとなく税理士の資格をとって中小企業の支援をできればと考えていた頃、この世の中を動かしているのは大企業だからまずは大企業のやり方を学び、そこから徐々に中小企業やベンチャーの方に近づいていてばいいと言われました。反対に弟はこの世の中を動かすのはベンチャーだから、日本を変えるようなベンチャーに入ってチャレンジをしてみなさいとアドバイスされていたんです」(裕哲)

叔父は兄弟にとって人生のメンターのような存在であり、二人はそのアドバイスを胸にそれぞれの道に突き進んでいった。兄・裕哲は大企業の営業職からスタートし、数年スパンで様々な業界や職種を自ら経験したことが今の起業支援活動にも繋がっている。弟・賀通はベンチャー企業で事業開発やマネジメントの経験を積んだのちに参画したテモナで上場も経験した。

二人が各々の領域で腕を磨いていたある日、その後の人生を変える出来事が立て続けに起きる。

「父親が亡くなる直前、弟が死に際に立ち会っていた時に一言『兄弟仲良くやって欲しい、それだけだ』と言われたんです。そして今度は後を追うように叔父の容態が悪くなった。弟がまだ何も返せていない、どうやって恩返しすればいいかを叔父に尋ねたんですね。そこで叔父に言われたのは『俺に恩を返すな、世の中に恩を送りなさい』ということ。今思えば、この二人の言葉が遺言のような形で自分たちの心に強く残ったんだと思います」(裕哲)

今の自分たちの生活があるのも父親や叔父をはじめ、先人たちのおかげ。だからその恩を次世代に返していこう──。叔父の法事の帰り道、兄弟で「恩送り」をテーマに会社を作ることがぼんやりと決まった。
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文=大崎真澄 写真=小田駿一

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