また、商品だけではなく、安定したデリバリー網の確立にも気を配った。様々な飲食店がデリバリーを開始してドライバー不足があると見るや、タクシーのドライバーと短期契約を結んで、独自のデリバリー網を作り、スピーディな配送を可能にした。
そのおかげで、店で作ったカクテル用の氷に至るまで、フレッシュで良い状態で届けられるようにした。
国土が小さく、中心街からは、どこに行くのも基本的に車で1時間程度というシンガポールならではの土地柄も、鮮度を保ったデリバリーを可能にした。
さらに、アジアNo.1に選ばれた知名度を生かし、同じくアジアのベストパティシエに選ばれたシンガポール人パティシエで、日本でもデザート店を展開するジャニス・ウォンのチョコレートに合わせたカクテルを作成した。
今後、国内外を問わず、様々なコラボレーションを行うことで、飲食業界全体の活性化に努めたいという。
「飲食店は対面商売が基本ですが、今回のことでいろいろな収入源を確保したほうが良いと考えたのは私達だけではないはずです」と江口氏が言うように、ギフト需要への対応など、コロナ禍を通して、逆に新しい顧客層や楽しみ方を開拓することとなった。
また、今回23位にランクインした、同じくシンガポールのバー「D. Bespoke」 のオーナーバーテンダー金高大輝氏は、コロナを通して「バーの付加価値の重要性を再認識した」という。
金高氏のバーは、日本の伝統工芸を生かしたクラッシックなインテリアと銀座仕込みのスタイルが地元の富裕層に人気の店で、カウンター14席、テーブル15席と、より日本のバーに近い業態だ。
「D. Bespoke」の店内
デリバリーでは、あえてデザイン性の高い瓶を使い、手作業でラベルに封蝋をするなどして高付加価値、高価格帯を狙う。
また、金高氏は趣味のレコード収集が高じて、自身のバーから徒歩5分ほどの場所に、「RPM by D. Bespoke」という、レコードで音楽を楽しむバーも開店した。
そこでは、レコード愛好者ならではの視点で金高氏がバーのBGMのプレイリストを作り、Spotify経由で、デリバリーやテイクアウトを楽しむ顧客が自宅に居ながらバーの雰囲気を感じることができるというサービスも提供している。
「バーは文化を売っていく場所」というのがモットーで、これまでも京都を中心とする若手伝統工芸作家グループ「Go On」とのコラボレーションを行うなど、カクテルの美味しさや技術だけではなく、それに付随する日本文化をシンガポールから伝えてきた金高氏。
デリバリーを自ら行うこともあり、直接顧客の自宅に赴くことを通して、「素顔の付き合い」ができる信頼関係を醸成できているという。