おいしい昆虫食? 日本伝統の「蚕」を原料としたシルクフードの未来像

「シルクフード」の開発を手がけるスタートアップ「Ellie(エリー)」の梶栗隆弘代表


タンパク質だけじゃない蚕の健康機能


近年、世界規模で「タンパク質危機」が懸念されている。人口増加に伴ってタンパク質への需要は拡大しているが、現状の畜産は生産物の何倍もの穀物によってまかなわれているため、2030年には世界でタンパク質の供給が需要に追いつかなくなる可能性がある。2013年のFAO(国際連合食料農業機関)によるレポートには、世界の人口増加に対応するために「人類は昆虫を食べる必要がある」と記載されている。蚕などの昆虫食は高タンパクで低糖質な未来の食材として期待されているのだ。

またタンパク質と言っても、筋肉トレーニングをする人には動物性のホエイプロテインの摂取が推奨され、ダイエットをしたい人には植物性のソイプロテインが推奨されるなど幅がある。昆虫からとれるタンパク質の場合はどうなのだろうか。梶栗は「蚕の特徴はバランスの良さですね。動物性タンパク質と植物性タンパク質のあいだくらいをイメージしてもらうと良いと思います」と述べる。

さらに蚕のすごいところは、少なくとも50種類を超える機能性成分が含有されていることだ。機能性成分とは、生命活動にとって必須の栄養素ではないものの、健康を維持するのに役立つことが期待される成分のことを意味する。蚕に多くの機能性成分が含まれることは、京都大学と「Ellie」との共同研究ですでに判明している。中には希少性の高い機能性成分も含まれるため、蚕は高栄養価の健康食品として大きな可能性を秘めている。


「シルクバーガー」には「蚕50%、牛肉50%」のパティが使われている。食べ応えも十分

現時点では、アンチエイジングや血糖値を下げるのに効果を持つ成分、抗酸化作用を持つ成分などが豊富だということがわかっている。また、パーキンソン症状の抑制効果が期待される成分や、腸内環境を整える働きがある成分も含まれているという。さらに機能性候補物質にまで枠を広げれば、蚕にはそれが約3000も含まれることが分かっており、これからの研究と分析の進展によっては、蚕からしか得られない健康効果が発見される可能性もあり得る。

また「シルクバーガー」には「蚕50%、牛肉50%」のパティが使われているが、ヴィーガンの人でもおいしく食べられるパティを開発中だという。「どうせならお肉を使っていない方がいいよねという声もいただいているので、現在は蚕×植物性でのパティの開発に取り組んでいます」
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文=渡邊雄介 写真=督あかり

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