【符合4】「彼らはきみから『ちょっとだけ』と借りていったお金で車を買っておきながら、その車で、出資者であるきみを轢いて意気揚々と去っていくかもしれないのだ」
最初に、机をたたいて怒鳴る、という「ちょっとだけ」強引な手法で彼女からいとも簡単に「自白」を取れることを知ったA刑事は、アメとムチを駆使してうその自白を引き出すことをエスカレートさせた。有罪に持ち込んで大きな手柄にしたA刑事はどうしたか。法廷を最後に意気揚々と西山さんのもとを去っていったではないか。
【符合5】「異性と付き合ったこともなく、この先もモテる望みはなさそうと思っている人は、『もしかしたら、おつき合いに発展するかも?』というえさをまかれたら、たちまちまいってしまう」
このくだりも、西山さんがA刑事と遭遇した状況と重なる。彼女は両親への手紙で「何でこんなにも嘘の自白をした調書が多いのかとなった時に『男性経験がない』ということを知られることがはずかしいからです」と交際経験がないコンプレックスを打ち明けている。
裁判では、彼女が取り調べ中、A刑事の手に自分の手を重ね、拘置所に移送されるときには「離れたくない」と抱きつき、A刑事がそれに応じて「がんばれよ」と肩を優しくたたいたことが明らかにされている。巧妙に「えさをまかれ」刑事の術中に落ちてしまったのではないか。手紙にも「Aさんの言うとおりにして最悪な結果になってしまって、他人から優しくあまいさそいにのせられて本当に後悔しています」と書いている。
西山さんは、A刑事を信頼したものの、自白を誘導されて有罪に。冤罪だったが、12年間服役までした(Shutterstock)
【符合6】「相手が魅力的で、カリスマ性のある異性となると、さらに危ない」
西山さんは、生まれて初めて自分のことを「かしこい」と言ってくれたA刑事のことを、両親に「私の理解者」「好きだ」と話していた。手紙でも「Aさんが大丈夫と言ってくれるのならとAさんの言う通りにしました」「A刑事を心から信用し嘘の自白をしたことは人生において最大の後悔です」と言いなりになってしまったことを告白している。
【符合7】「友だちだと思っていた人たちに、身ぐるみ剥がされてしまうことにもなりかねない」
悲しいかな、結果はそうなった。手紙には「A刑事に好意をもち、きにいってもらおうと必死でした。それがダメでした」と好意をエスカレートさせた揚げ句、あだで返されたことへの後悔が繰り返し出てくる。同時に、手紙ではA刑事から言われた言葉にも触れている。
「『お前のことは俺が一生めんどうをみてやるし、その心の不安もとりのぞいてやる』と言われ、心底A刑事を信用してしまった」
詐欺師さながらに甘い言葉を繰り返され、手玉に取られてしまった様子がうかがえる。
「仕事とはいえ刑事というのは冷たいものですね、家族のありがたみがすごくわかりました」
手紙につづられた傷心の告白は、不憫なことこの上ない。
専門書の一節との符合によって、ひとつだけ、わかったことがある。「刑事を好きになり、気に入って欲しくて自白した」。裁判では一顧だにされなかった彼女の抗弁は、発達障害の専門的な視点というフィルターを通せば、荒唐無稽とまでは言い切れない、ということだ。私たちは、専門家による分析を急いだ。
連載:#供述弱者を知る
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