驚いた。西山さんと取調官のA刑事の関係そのものではないか。手紙や裁判資料で私たちが把握した状況と符合するポイントが、あまりにも多く、まるでこの事件の解説をしているように感じた。
西山さんのケースと重なる部分を7つ紹介したい。
【符合1】「最初の友だちさえなかなかできなくて、そのために引っかかりやすくなる」
いきなり出てきたこのくだりは、まさしく、西山さんのことだった。彼女は、友だちができないことが幼少期からの悩みで、周囲の関心を得ようとして、ついうそをついてしまう癖が大人になってもなおらなかった。両親への手紙には「私は人との接し方がわからないし、自分に自信がありません」と書いている。そんな折りに遭遇したA刑事。彼女はあっけなく〝カモ〟となってしまったのだ。
【符合2】「ぼくらに会わなければ良い人で通せていたような人たちまで、あまりに無防備なぼくらを見ているうちに、つい、わがまま心を刺激されてしまう」
これも、西山さんとA刑事の関係を、はからずも言い表している。A刑事が「良い人」かどうかは知らないが、西山さんは無防備そのものだった。捜査対象になっていながら、優しく接してくれるA刑事に会いたいがために、自ら捜査本部に通う、というのは危険で、無鉄砲な行動以外の何ものでもない。父親が「あまり近づくな」と注意しても、彼女の耳には入らなかった。
後日談になるが、西山さんの無防備な性格は、この2カ月後に獄中で行った精神鑑定で見事に立証された。
心理テストでのこと。スピード違反で白バイ警官に停車させられ「学校の前だというのに時速60キロも出したりして、一体どこへ行くつもりですか?」という質問にどう答えるか、という設問に、彼女は「すみません。いつもこれくらいスピードを出していてもなにも言われなくて」と書き込んだ。
鑑定した精神科医と臨床心理士は「自分を守ろうとする意識がまったくない」と驚いた。普通なら、交通違反の切符を切られまいとして、やむにやまれぬ事情があるかのような言い訳の一つもするところだ。ところが、彼女は「いつもこれくらいのスピードを出していて」と真っ正直に返答し、常習的なスピード違反の告白がより自分に不利益をもたらすとも気づかずに、自らを窮地に追い込む回答をしてしまっている。
【符合3】「〝友情〟のためとはいえ『これ以上は譲らないぞ』というライン(を持てない)」
西山さんは、仲の良い同僚のS看護師を助けるために「私が呼吸器のチューブを外した」と供述してしまった。その後、A刑事がでっち上げたストーリーに合わせてどんどん虚偽自白を重ねた。いずれも友情のためとはいえ〝越えてはいけないライン〟だ。手紙には「私がAを好きになり、それにSさんもかばってしまい やってもいないことをやったといい、こんな結果になってごめんなさい」と悔いている。