なぜ韓国文学ブーム? フェミニズム文学で注目の若き女性作家たち

日本でも大ヒットの筑摩書房刊『82年生まれ、キム・ジヨン』店頭展開写真。韓国文学人気の秘密は?


韓国文学を読んでみたい人におすすめの一冊は?


まだ韓国文学を手に取ったことがない人に、おすすめの本はなんだろうか。斉藤に尋ねると、まずチョン・セランの『フィフティ・ピープル』(亜紀書房、訳・斎藤真理子)を挙げた。
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これは、ある大学病院を接点に50人以上の登場人物の人生が交錯する物語。韓国で最も権威ある文学賞のひとつ、韓国日報文学賞を受賞した作品でもある。作家自身の言葉によれば「主人公のいない小説を書きたい」と思って書き始めたという。

「全員が主人公で、主人公が50人ぐらいいる小説」というと、何か実験的で難解な作風を思い浮かべる方もいるかもしれないが、決してそんなことはない。極めて読みやすくエンターテイメント性を備えた作品となっている。登場人物のポップなイラストが描かれた表紙もかわいい。

韓国文学の特性として、名前だけでは一見主人公の性別が分かりづらく、そこに仕掛けがある作品もあるが、本作には「ソ・ヨンモ」や「ムン・ヨンニン」などの名前と合わせて、ひとりずつイラストも添えられているため、登場人物のイメージが湧きやすい。斉藤は、読みながら登場人物の相関図を紙に書き出してみるのも面白いという。
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チョン・セランの『フィフティ・ピープル』では、50人以上の登場人物の人生が交錯する

もうすでに何冊か韓国文学を読んでおり、新しいタイプの作品に挑戦してみたいと考えている方には韓国SFもおすすめだ。日本ではSFというと主に男性読者に好まれる印象があるが、韓国のSF界では作家も読者も女性が多いそうだ。

チョン・ソヨン著『となりのヨンヒさん』(集英社、訳・吉川凪)も女性作家のSF作品だ。著者が12年間のあいだに発表してきた作品15篇をまとめた短編集である本作は、「もしも隣人が異星人だったら?」「もしも並行世界を行き来できたら?」「もしも私の好きなあの子が、未知のウイルスに侵されてしまったら?」といったSF的な問いが、同性愛やフェミニズムなど、現代的なテーマを通じて描かれる。

「韓国SFは実は、去年あたりから注目されはじめています。作風としては、壮大な宇宙を描くいわゆる空想科学小説というよりも、近未来の人間の視点で現代を描くことによって社会批判になっているような、そんな感じの作品が目立っている印象があります。シリアスな問題意識を持ちながら、エンタメの力が合わさることで純粋に楽しめるのが魅力ですね」と斉藤は語る。

彼が日本で韓国文学シリーズを立ち上げてから3年。まずは現代のフェミニズム作家が注目を浴びてきたが、いまでは韓国文化をさらに深掘りして理解できるような古典的な作品に挑戦してみたいという読者も増えてきているという。日本は出版不況と言われて久しいが、私たちを夢中にさせるような物語は実は「となりの国」にもっとたくさんあるのかもしれない。今後も目が離せない。

文=渡邊雄介

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