日本の少子化に拍車をかけるコロナ禍の「厳しい現実」

Getty Images


休校に伴い、オンライン教育に一気に注目が集まったわけですが、日本は授業中のデジタル機器使用率がOECD加盟国の中で最下位(2018年のOECDによる生徒の学習到達度調査)で、オンライン教育の後進国です。数学では、OECD平均37.8%に対し日本は7.8%しかありません。ネット接続や端末の整備、教師のオンライン活用スキル、単位認定制度などあらゆる面で、日本ははなはだ遅れています。

一方で、授業時間の確保、学校行事や部活動のためにと「9月入学」が話題となり、全国知事会が提言しましたが、子を持つ親の現場感はもっとストレートです。

休校によって数日ごとにまとめて出る宿題をやらせたり、給食がない分、三度の食事を用意したり、リモートワークをしながら子どものケアをする親の負担はかなりのものです。日本の大半の家庭ではこれを母親が担っており、また、その父親の雇い主も、それが当然というスタンスが多いようです。筆者のまわりでは、こうした話は男性より女性からよく耳にしました。

するとやはり、大抵の親や教育関係者にとっては長期施策よりも現場の整備が最優先。学校や家庭単位で工夫がされていますが、国全体では政府や自治体のリーダーシップが不可欠です。

現実が少子化に拍車をかける?


新型コロナが猛威を振るう前、2020年1月には、小泉進次郎大臣の育休取得により、育児が大きな話題になりました。関心が薄かった人も見聞きし、日本の男性育休取得率は6%と先進国で最低(かつ、育休取得者の71%が2週間未満と短い)など、あまり知らなかったことも知られるようになりました。

例えば、お笑い芸人の“せやろがいおじさん”によるYouTube番組「ワラしがみ」が配信した、日本での育休の大切さと産後環境の問題をわかりやすくまとめた「育休を取った小泉進次郎に一言」は大きな反響を得ました。

「大臣のくせになに育休とっとんじゃー」と言おうと思ったのが、「調べれば調べるほど育休取得がナイス」であり、その背景として、「日本の初産婦の25%が産後うつの可能性」、「妊産婦の死因第一位が自殺」であるなどの現実をあげていました。

「知る」ことで人々はかわり、その人々によって社会が変わります。世界経済フォーラム(通称ダボス会議)が「知る社会(informed society)」をアジェンダとして取り上げたのが2010年。その10年後、これから子を持つ可能性のある日本の人々が、その想いを削がれかねない現実を知ることになったのは悲しい話です。



その実情が知られてからわずか数カ月で新型コロナによる混乱です。パンデミックで人が不安になるのは当然です。コロナ禍が過ぎてもまた次があるのではないかと思う人も多いでしょう。

そうした不安は不況を引き起こし、不況は出生率に影響します。経営不安が高まる業界ではなおさらです。コロナ禍がなくとも、一人の女性が一生の間に生む子どもの数に相当する合計特殊出生率が4年連続で下がっており、2019年には1.36まで低下。出生数は86万5234人で、1899年の調査開始以来、過去最少となり、人口減が加速しています。

国の少子化対策の2025年までの指針となる「少子化社会対策大綱」が5月29日に閣議決定されました。育休給付金や児童手当拡充、不妊治療支援などの方向性を示しましたが、財源の見通しはなく、具体性に乏しい内容にとどまっています。そもそも先進国の中で、日本はこの分野への予算が薄いのに、手は打たれないまま。コロナ対策で余裕がなかったのかもしれませんが、危機感はつのります。

「緊急度は重要度を駆逐する」とも言われますが、企業経営でもそれは避けるのが定石です。いまや日本は、少子化問題で崖っぷちどころか崖から落ちそうな状況と言っても過言ではありません。その重要課題に対し、現場に寄り添った施策が打たれることを願います。

文=本荘修二

ForbesBrandVoice

人気記事