マリッサ・メイヤーはグーグルにいたころ、この問題を抱えていた。ある日彼女はビルに、新しい方針を与えられた。チームと問題を話し合うとき、君はいつも最後に話すようにしろ。君は答えを知っているかもしれないし、それは正しいかもしれないが、答えをただ与えるだけでは、力を合わせるチャンスをチームから奪ってしまう。正しい答えにたどりつくのは大事だが、チームみんなでそこにたどりつくプロセスも同じくらい大事だ。
そんなわけでマリッサは、チームが問題を議論するあいだ、柄にもなく静かにすわっていた。不本意だったが、うまくいった。彼女はチームと彼らの問題対処能力を見直した。
Yahoo!の元CEO、Googleの元副社長、マリッサ・メイヤー(Getty Images)
マネジャーは「決着」をつけよ
最適解が生まれない場合、マネジャーは決定を促すか、みずから決定を下さなくてはならない。
「マネジャーの仕事は議論に決着をつけることと、部下をよりよい人間にすることだ」とビルは言った。
「『この方針で行くぞ。くだらん議論はおしまいだ。以上』と宣言するんだ」
ビルはこのことを苦い経験から学んだ。アップルの幹部時代、決定を長引かせてしまい、事業に悪影響がおよぶという、正反対の状況に陥ったのだ。
「アップルはそのせいで低迷した。こっちの部門が何かをやり、あっちの部門がちがうことをやり、誰かがまた別のことをやりたがる。早く決断してくれと部下に迫られたが、私の担当はセールスとマーケティングで、Apple IIとマッキントッシュのプロダクトグループの議論に決着をつけられなかった。まさに泥沼で、何も進まなかった。あれは本当に堪えた」
決定を下さないのは、誤った決定を下すよりたちが悪いかもしれない。
ビジネスでは決定が下されないことがしょっちゅうある。そこには完璧な正解など存在しないからだ。
だが、まちがっていてもいいから、とにかく行動を起こせ、とビルは教えた。決定を導くための適切なプロセスがあることは、決定そのものと同じくらい重要だ。そうしたプロセスがあれば、チームは自信を持って前進し続けることができる。
アドビシステムズの元で、ビルとクラリスで一緒に働いたブルース・チゼンは、これを「誠実な意思決定」と呼ぶ。すぐれたプロセスに従い、個人ではなく会社のためになることをつねに優先させて決定を下す、ということだ。自分たちにできる最善の決定を下し、前へ進め。
ブルース・チゼン。アドビシステムズの元で、ビルとクラリスで一緒に働いた。(Getty Images)
そして、リーダーはいったん重大な決定を下したら、それに全力で取り組み、ほかの全員にもそうするよう求めなくてはならない。オンライン学習プラットフォーム、チェグのダン・ローゼンスワイグは、前にこんな状況に陥った。重要な財務戦略についてCFO(最高財務責任者)と合意したのに、CFOはささいな問題を理由に、合意を取り消すと言ってきたのだ。ダンはビルに電話をかけて相談した。どうしたらいいのか?