コンサートなどはまさにその際たるもので、両者は50:50の関係です。そしてその50:50の関係がつくられる場所が「劇場」なのです。
観客の皆さんは大切な時間とお金をわざわざ使って会場を訪れ、僕たちの弾く音楽を積極的にキャッチしてくれる。そのとき、『ステキだった』と思ってくれる感性があってはじめて僕らは成立するんです。だから、僕は『もしもお客さんが自分の音楽を気に入らなかったら、帰ってしまっても仕方がない』と思っています」(小曽根氏)
「私たちは発信します。そこに集い、共鳴し、その場の価値を創ってくださるのはお客様なのです。教会や神社ではありませんが、集まった方たちの想いが場所に命を与えるのだと思います。
最終日にオーチャードホールに会場を移したのは、『Our(私たち)』のリビングルームでつながった魂が実際に集まれる場所、『Your(あなたの)』のホーム=シアターを実感してほしかったからです」(三鈴氏)
「シアターは僕たちアーティストとオーディエンスの皆さんが一緒に創り上げるミラクルな空間なのです」(小曽根氏)
人生の大切な曲に「ジャンル」はない
小曽根氏自身は、リビングルームコンサートによって期せずして自分の「原点」に戻ることができた。
「昔は留学費用を貯めるために、デパートや青年会議所のパーティで弾いたこともありました。心斎橋のスナックで酔っ払ったお客さんが歌うカラオケの伴奏をしたことも。時には自分のあまり好みではない曲もあったけれど、どんな音楽も弾いているうちにだんだん楽しくなっちゃうんですよね。
そういうときには、『ああ、僕はやっぱり音楽が好きなんだな』と再認識した。リビングルームコンサートでは、そういったいろんな出来事がすべて戻ってきたんです。最前線のジャズをやっている自分ではなく、音楽を、ピアノを弾いている自分。『僕はピアノ弾きなんだ』を実感できたのです」(小曽根氏)
「彼が、私の母の介護先のホスピスで演奏してくれたことがあったんですけれど、『せっかくジャズの先生が来てくださったから、“愛の讃歌”を……』と言われて、『それはシャンソン……』って(笑)。でも、考えてみると、思い出の曲にジャンルは関係ないんですよね。その人の人生における大切な曲、それが最高の曲なんですね。
そして、表現者としてのギフトをもらった者の使命は、誰かにとっての最高の一曲をいかに大切に弾けるか? に尽きることを教えてもらいました。初心に帰りましたね」(三鈴氏)