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2020.07.22 20:00

「TECH PLAYER AWARD」受賞者インタビュー 。自動運転で世界をリードするティアフォーがグランプリに

受賞者に授与されるTECH PLAY AWARDのトロフィー

パーソルホールディングスとパーソルイノベーションが共催する「TECH PLAYER AWARD」は、テクノロジーを武器に素晴らしい未来をデザインする“テックプレイヤー”を表彰するアワードだ。記念すべき第1回では、飛躍が期待される分野と課題を抱える業種に革新をもたらした テックプレイヤーに評価が集中した。受賞結果と受賞者のコメント、審査員が評価したポイントについて紹介していく。
Award Laureates 受賞者発表

TECH PLAYER OF THE YEARティアフォー
受賞者代表:創業者 最高技術責任者(CTO)加藤真平

CTOの加藤真平

オープンソースの自動運転ソフトウェアが導く、破壊的創造と創造的破壊

「実は、現在に限っていえば、自動運転に『これだ』というニーズがあるとは思っていません。ビジネスありきの発想ではなく、自動運転というテクノロジーによって既存の価値を壊し、新しい価値を創っていきたい。それが本当のディープテックを目指す私の最大のモチベーションです」

グローバルベースでも自動運転の分野でトップを独走するティアフォーがなぜ、自らが開発した世界最高クラスのソフトウェア「Autoware」をオープンソース化したのか。同社創業者の加藤真平の冒頭の発言で、察しはつくだろう。東京大学の准教授でもある加藤は世界の英知を結集、あるいは企業を巻き込み「Autoware」を起点に自動運転の研究をさらに加速させたいと考えている。ティアフォーが描く実用化のロードマップの中からは3つの現実的路線を挙げてもらった。


完全自動運転EV「Milee」

「例えば、仮に、今回のコロナ禍でも無人の車が病院の敷地内、工場などを自在に走り、デリバリーでモノを運んだら、人の助けになったと思います。同様に災害のときにも大活躍してくれるはず。早期の実用化を目指しています」

「Autoware」は、何かを自動で動かすということに関しての拡張性が他のソフトウェアと比べてはるかに高い。実際にヤマハ発動機との合弁会社「eve autonomy」の自動搬送車両も「Autoware」を採用している。


乗客向け車載アプリ

「ふたつ目は『Milee』に代表される、実際に街中を走る低速の車の実装です。運転する必要がないということは、移動中に自分だけの空間が生まれることを意味します。新たなビジネスコンテンツは、自動運転そのものよりも車室空間と移動時間にあるのかも知れません」

さまざまな条件の範囲内でカスタマイズできた者がビジネスチャンスを掴むのかもしれない。

「3つ目はティアフォーとして当面の最大の挑戦になります。地方の過疎地域や中山間地域で無人のタクシーを走らせる。高齢者や病気の方の最適な移動の手段になってほしいのです。ビジネスとしてはいますぐに成立しませんが、いずれ地方創生の起爆剤にもなると思っています」

▶審査員の評価ポイント
「実際の採用事例も多く、間違いなくこの分野のリード役。このソフトウェアをオープンソース化し、コミュニティを重視したことを大いに評価」(田中)

「技術水準、走行実績などグローバルで勝負できるレベル。自動走行という社会的なインパクトを含め、間違いなく今年のベスト・オブ・ベスト」(石山)



NEXT TECH PLAYER上原直人
開成高等学校1年生

上原直人。プログラミングの作業風景

ゼロからプログラミング言語を開発! 高校生スーパークリエイターの発想力

日本には優れたテックプレイヤーが数多いるが、もっとも層が厚いのは、プログラミングを重要な勉強のひとつとして考える中学、高校生世代なのかもしれない。その中でも突出した才能をもつ人間は、すでに社会に大きなインパクトを与えられる存在であることを、上原直人は立証した。

昨年、上原は構文の読みやすさに優れた、これまでにない新しいプログラミング言語、「Blawn」を発表。開発の動機を次のように語る。

「コンピュータが学習するってどういうことだろうと興味が膨らみ、『Python』を使い始め、その後に『C++』にも触れました。いろいろと学んでいくうちに、気を付けて進めていかないと何かとエラーが起きてしまうことがわかりました。言語側の努力で事前に防げたらもっと使いやすくなるのではないかと考えたのが開発のきっかけです」

トップエンジニアでもこんな発想は浮かばないだろう。しかも、構想からわずか1カ月足らずで言語開発にこぎつけたというのだから驚きである。

「素直に意図がわかりやすいような構文を目指しました。静的型付けにもかかわらず型を明記しなくてもいいのが最大の特徴だと自分では思っています。もうひとつはプログラミングに使う関数をすべて一般的なものにしました。他の言語には見られない特徴です。まだまだ、完璧ではないのでさらにアップデートし、開発者がストレスを感じずに記述できる言語にしていければと考えています」


「U-22プログラミング・コンテスト2019」では経済産業大臣賞を受賞した

目標は、自ら考案した言語がさまざまなソフトウェアに書かれることだと言う。

そんな上原にとってプログラミングとは何か。こんな愚問にも彼は真摯に答えてくれる。しかもその内容がとてもユニークだ。

「小学生の頃、誰よりも遠くに紙飛行機を飛ばしたくて、インターネットの工作サイトを見てたくさん研究しました。そこで本物の飛行機が飛ぶ原理を学び、論理的に創意工夫したことが記憶に残っています。プログラミング思考とも共通すると思います。難しく考えずに、楽しんで取り組んでいると、どんどんアイデアが浮かんできます。そういう意味で、創作活動に近い感覚があります」

▶審査員の評価ポイント
「プログラミング言語という課題に興味をもち、その開発まで行った、その興味・好奇心の先の可能性を期待したい」(及川)

「言語ですら与えられるものではなく、自分で生み出せるのだということを実証した。今後の活躍に大いに期待したい」(漆原)



BEST DX COMPANY日本瓦斯
受賞者代表:執行役員 エネルギー事業本部 情報通信技術部部長 松田祐毅


「スペース蛍」の開発リーダーを務める松田祐毅(photographs by Shuji Goto)

エネルギー業界に新たな価値をもたらした、IoTデバイスの驚くべき性能

「GAFAが日本のエネルギー業界に進出してきたならば、どんなサービスを人々に提供するだろうか」。ニチガスのDX推進のシンボルとなったNCU(Network Control unit)「スペース蛍」の開発リーダー松田祐毅は時折そんなことを考える。

IoTデバイス、「スペース蛍」は、メーターを交換せずにすでに設置済みのLPガスメーターに後付けで使用できるのが大きな特徴のひとつ。ユーザーのガスの利用状況を可視化できるようになったことで、ニチガスはさまざまな高度なサービスを展開し始めている。

「例えば、保安の観点から言うと遠隔で各家庭のボンベの状態を把握できるので、ガス漏れなど事故につながる原因を未然にキャッチし、お客様が気づかないうちに修理にお伺いできるようになりました。IoTの技術が成せる業だといえるでしょう」


NCU「スペース蛍」。21年3月までにすべてのLPガスユーザー宅へ導入予定

松田はさらりと話すが、新たなシステムを自社で開発するのは容易ではなかったはずだ。

「テクノロジーに強い人員だけで開発すると、とんでもなくハイスペックな機能が搭載されてしまう。どんなに秀逸なソフトウェアであっても一般の社員にとって使いづらく、お客様がメリットを感じなければ何の意味もありません。会社全体をどう巻き込んでいくかが最大の課題でした」

IT業界の巨人たちはこうした隙をついて、他業界に進出してくる。現時点で存在しないライバルをイメージし、先手を打っておく。その発想力がテックプレイヤーとしての松田の凄みといえる。

「この業界は長い間、重要な責務を担う検針員、保安員などの人材不足に悩まされていました。しかしそこが問題の本質ではない。何がイノベーションを妨げているのか、ピンポイントで突き止めなければならなかったのです」

自らが配送員の制服を着て営業に回ったことも一度や二度ではない。そこでユーザーのニーズや現場の抱える負担を肌で知った。こうした地道な作業に実に1年もの時間を費やしたという。

「人手不足を解消し、それまでのオペレーションを変えることなくコストパーフォーマンスにも優れたシステムが完成したのです」

▶審査員の評価ポイント

「大規模なNCUの展開とテクノロジーを駆使した省力化の推進に拍手。相応の投資がインフラとオペレーションを支えることをよく知っている」(八子)

「人口減少と物理的老朽化という先進国のインフラ業界が抱える問題を、DX化で解決しようとし、インフラ自体をバリューアップさせた典型例」(田子)



BEST DX COMPANYゑびや
受賞者代表:代表取締役/ファウンダー 小田島春樹

代表取締役/ファウンダーの小田島春樹

的中率95%!「来店予測AI」で生まれ変わった、老舗料理店の奇跡のストーリー

もし、厳しい経営を余儀なくされている料理店の店主がタイムマシンに乗って未来へ行けたなら? 財務状況は当然、一変するだろう。

伊勢の老舗料理店「ゑびや」が開発した来店予測データシステム、「TOUCH POINT BI」を活用すれば、タイムマシンなど、もはや不要。「いままでは長年のカンを頼りに仕入れやサービスを行ってきましたが、それでは結果が出なかった。事業を継続するためにDX推進が必要でした」

代表の小田島春樹は、「ゑびや」の快進撃はこの決断から始まったという。

過去の実績、気象データ、通行量、混雑時の条件、時間別の売上記録などをAIが分析し、その日の最適なオペレーションをはじきだすのが「TOUCH POINT BI」の役割。データは、関連会社「EBILAB」で随時集積されていく。来店客数、注文数などの予測的中率は95%を超えるという。小田島及び「ゑびや」のスタッフの目には、翌日の開店から閉店までの店舗の景色が映像としてはっきりと見えているのだろう。そうでなければ、売り上げ5倍、利益率10倍という急成長はかなうはずもない。


100年の伝統を感じさせてくれる、ゑびやの外観。伊勢の郷土料理を楽しめる

「DXに取り組んだことで仕事が効率化したことは何より大きかった。メニューの改定や販促方法など大切な業務のプランが次々とスタッフから提案されるようになりました。テクノロジーと人の力が合わさって売り上げが伸びたのだと思います」

小田島は、テクノロジーが危機に強いことも証明した。新型コロナウイルスの第一波では、「ゑびや」は新たなオプションを用意したのだ。

「コロナでもすぐにWEB来店という仕組みに切り替えられたのはDXが完成していたからです。『ゑびや』のお客様のほとんどが中部、関西エリアからお越しになる。それ以外の地域のお客様へどのようにアプローチをするか、課題でした」

このサービスは非常に好評で、コロナが収束した現在も続いている。客はヴァーチャル上で伊勢神宮を参拝した後、「ゑびや」の系列の土産店で商品を購入できるという仕組みだ。「ゑびや」は、未曾有の危機さえもチャンスに変えたのだ。

▶審査員の評価ポイント

「AIの実店舗への適用は、夢物語が多いなか、見事に接客業務に技術を融合させた希有なケース。技術を技術の力が必要な箇所に使い、人は人でなければならないことに時間を使える」(名村)

「テクノロジーの民主化とは何かを最もわかりやすく具現化したロールモデル」(友岡)



BEST UX TEAM任天堂 リングフィットアドベンチャーチーム
受賞者代表:「リングフィットアドベンチャー」プロデューサー 河本浩一、ディレクター 松永浩志、ハードウェアプロジェクトリーダー 田邨嘉隆

「リングフィットアドベンチャー」は付属の新しい周辺機器リングコンとレッグバンドにJoy-Conをつけて全身を動かして遊ぶアドベンチャーゲーム。7,980円+税

ゲームの常識を根底から覆す! フィットネスをゲーミフィケーションで実現!

ゲームを楽しみながら、同時にフィットネス効果も期待できる。斬新なコンセプトで人気商品となった「リングフィットアドベンチャー」。

付属のリングコン、レッグバンドにJoy-Conをセット。センサーによって、プレイヤーの体の動きを検知し、モニター上のキャラクターと連動する。アドベンチャーモードを選んだ場合、ジョギングすることでフィールドを駆け巡り、スクワット、プランクなどの運動でモンスターを倒して冒険を進めていく。一度、このゲーム性にはまってしまうと、ユーザーは自然に体を動かすことになる。

「ゲームを制作する際にこだわったのが、体を動かす爽快感、達成感をお客様に味わってもらうための仕掛けでした。例えば、運動中、両手にもつリングコンに振動を加えたり、サウンドや効果音を変えたりすることで、プレイヤーの運動に取り組むモチベーションがどれだけ変わるか、徹底的に精査しました。ゲームを楽しみながら、しっかり運動して汗をかきたいと思ってもらえる演出が大切。最も苦労した点です」(河本浩一)


写真左から河本浩一、松永浩志、田邨嘉隆

もちろん、老若男女が楽しめる仕様にしなければならない。60種類以上のフィットネスメニューを用意しながら、安全性も十分配慮されている。

「ゲーム開始時にリングコンでお客様の筋力を測定したものが、プレイする際の基準値となります。その基準値をもとに、無理なく運動できるようにプロのトレーナーやヨガのインストラクターに各トレーニングの監修をお願いしました」(松永浩志)

リングコンには驚きの機能も搭載されている。「リングコンは特殊なバネでできているので、押し込んだり、引っ張ったりして、上半身全体をバランスよく鍛えられるのが特徴です。Joy-ConのモーションIRカメラを活用し、脈拍数が測れる機能も搭載しました。適度な運動の強さにご調整いただくためのアドバイスも表示されますので、運動をより効果的に行っていただくための目安になると考えています。」(田邨嘉隆)

フィットネス分野をゲーミフィケーションで実現した秀逸なアイデアは、社員の独創性を大切にする任天堂だからこそ生まれたのかもしれない。


▶審査員の評価ポイント
「ゲーミフィケーション要素を取り入れ、トレーニングを持続しやすくなるパーソナルジムに近い体験を実現した」(坪田)

「ゲームの枠を超えて、トレーニングをエンターテインメント化してしまった秀逸なUI/UXを大いに評価したい」(小野)



SOCIAL TECH PLAYERChainerチーム
Preferred Networks(PFN)リサーチャー 得居誠也、同(PFN)エンジニア 前橋賢一、レトリバカスタマーサクセス部部長 舛岡英人

写真左から、得居誠也、前橋賢一、舛岡英人

先進性で一気に世界の頂点へ。日本初の深層学習フレームワークが与えた衝撃

「深層学習のフレームワークがここまで盛り上がるとは思わなかった。開発当初のことを考えると、景色が変わったなと感じます」(得居誠也)

「自分たちが創ろうと思ったフレームワークが完成したら、たまたま世界と結びついた。とくに野心があったというわけではありません」(前橋賢一)

「ユーザーと一緒に楽しみながら、テクノロジーで社会をよくしたいという気持ちはいまももち続けています」(舛岡英人)

Preferred Networksを中心に開発された深層学習フレームワーク「Chainer」は、2015年にオープンソース化されると、その革新性、ユーザビリティがまず日本で注目を集め、加速度的に世界へと広がっていった。計算を実行したと同時に計算グラフも定義される「Define-by-Run」の実行方式は彼らの手によって、ディープラーニングの世界標準にまでなった。その技術はGoogleやFacebookのフレームワークにも取り入れられたほどである。


「Chainer」のTシャツを着た「Chainer」開発関係者と、群の知名度を誇っているにもかかわらず、自ら戦外部のコミッターの集合写真

19年末の決断もまた清々しいものだった。深層学習フレームワークの開発が世界中で過熱している最中、その分野の先駆者であり、すでに抜群の知名度を誇っているにもかかわらず、自ら戦いの舞台を下りてしまった。「Chainer」の機能を順次Facebookの「PyTorch」に移植すると発表したのだ。

「『PyTorch』と『Chainer』は設計思想に違いはあるもののアプローチ方法はとても似ています。いよいよAIが実装されていく段階で似たようなフレームワークがふたつあるのは世の中にとって少しも有益ではありません。世界中の研究者が出した成果を素早く取り込むためには、『Chainer』のリソースを『PyTorch』に移すほうが建設的だと考えたのです」(得居)

「Facebookと組んだからといって、私たちのプレゼンスが下がるわけではありません。『PyTorch』が苦手とする機能を開発していく役割を担っていくことが私たちのミッションです」(前橋)

新時代の開拓者たちはこれからも世界を驚かすことを平然とやってのけるに違いない。


▶審査員の評価ポイント

「ITエンジニアがディープラーニングに慣れ親しみ、実際に活用するにあたって、その車輪の発明に真正面から取り組んだ姿勢に敬意を表したい」(田中)

「最高の挑戦者たちに最大限の拍手を。その先見性は世界的企業にも影響を与え、テクノロジーの進化の針を前に推し進めた」(常盤木)


>>審査員スペシャル鼎談/審査員紹介/本アワードを終えて
>>TECH PLAY AWARD 2020 Overview

Promoted by パーソルイノベーション/ text by Hiroshi Shinohara / edit by Akio Takashiro