ビジネス

2020.07.15

戦後初、日本一新しい日本酒の「酒造会社」誕生秘話

日本酒の酒造会社「上川大雪酒造」


第二の理由は、昭和の時代を最後にかつて15蔵あった十勝地域の酒蔵は現在ゼロ蔵になっていて、食の宝庫・十勝の酒蔵復活を願う声もあり、日本唯一の国立農業系単科大学・帯広畜産大学のキャンパスに酒蔵をつくり、北海道十勝で次代の醸造家を育て、道産酒の研究を行う拠点とするということである。

国立大キャンパス内の酒蔵開設も様々な苦労があったが、学長をはじめ大学と関係者が道なき道を切り開いて頂いたおかげで、2020年5月、日本初の大学酒蔵が完成した。現在、大学酒蔵での初めてのお酒を醸しており、今回の挑戦を応援してくれたサポーターには、その初めて醸したお酒がリターンとして届くプロジェクトを現在「Makuake」で実施中(2020年7月17日まで)だ。また、同プロジェクトは日本酒ジャンルのクラウドファンディングで応援購入額・サポーター数ともに日本一の記録を達成した。

酒蔵にとって「withコロナ」は敵か味方か


前述のように上川大雪酒造は地域で単独で二本足で立てる小さな酒蔵として初年度から黒字を計上することが出来た。創業2年目には他のまちの地域振興の計画が進み、酒蔵の無かった地域に第二工場として新たな酒蔵をつくった。現在、第三、第四の話を進めている。

大学と連携出来たことで次代の醸造家を育て、新たな酒蔵の人材育成も同時に進めている。コロナ感染症による自粛期間を経て新たな生活様式がスタートした。元に戻ることは考えていない。

上川大雪酒造は今年2〜5月の売上合計が前年比を超えた。同時期の北海道の全酒蔵の平均は前年比5割程度と言われている。この期間は当社も直営店舗を閉店していたが、自社オンラインの売上シェアが全体の2割から4割に増加し、オンライン会員数も急速に伸びた。

先に述べたが、今後も地域共同体となりクラフト化された酒蔵は食中酒としての日本酒の需要を新規に取り込みながら時代変化に対応できると思う。



大手ビールメーカーもクラフト市場に参入してイメージを変革し、個人をターゲットに変革を進めていた会社とそうでない会社との差がつき始めていると報道された。今までは大手だからこそ出来たオンラインシステム開発やD2C、B2Cへ転換する為の投資が、「withコロナ」という世の中になった現在は中小零細企業でも業態転換する為の補助金や融資制度が整備されて、新たな市場に参入できる環境が出来た。

クラフト化された酒蔵は地域振興を進めることで、過去の実績や資産が無くとも前向きに資金調達をして、大手ブランドと無縁な極めて公平な市場に向かって挑戦できる。その結果、クラフト化によって地方や「田舎」にも日本酒の市場が再興されて日本酒を親しむ人が増えることで、全体としても日本酒消費が増え、大手を含む業界全体の利益につながると考えている。

約1500社ある日本の酒蔵のうち会社数で全体の約9割を占める零細の酒蔵は保護対象ではなく、「withコロナ」の時代には地域の新たな日本酒市場をつくり、業界変革の目玉になり得るのだと思う。


塚原敏夫◎新卒で野村證券に入社。AIG Alico、縄文アソシエイツ、リクルートEXなどを経て、フレンチの巨匠・三國清三シェフと共にレストラン運営会社を立ち上げ、北海道の地域振興に関わる。北海道に戦後初となる日本酒の酒造会社「上川大雪酒造」を創設。酒蔵の無いまちに酒蔵をつくり地域活性化するプロジェクトを進めている。

編集=新國翔大

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