ところで、真っ当な広告は、真っ赤な嘘は絶対に言わない。何故ならば、少しでも中長期的なことを考えたら、嘘は決して得をしないからだ。
甘くないものを甘いと訴えても、飲めばわかってしまうし、原料について嘘を書けば必ず糾弾される。というわけで「嘘」は言わないとしても、「盛る」ことは確かに多い。また「言わなくていいことは言わないでおく」という傾向もある。
卑近な例でいうと、小スペースの旅館の広告で風呂の写真がない場合は、やはり風呂がしょぼい。料理への言及がない宿は、料理に自信がないというふうに。
そういった広告への不信感が広まっているからこそ、クチコミのほうがチカラを持つ時代になったとも言われている。
カビの生えたワッパーが最高賞に
さて、そんななかで、普通は見せないシーン、広告主側からすると見せたくないであろう「不都合な真実」をあえてフィーチャーすることで、逆説的に強い訴求力を得た例が、今年の前半にお目見えした。
バーガーキングの「Moldy Whopper(カビの生えたワッパー)」だ。2020年の「カンヌライオンズ」は中止となったが、3大広告賞と言われる「One Show」はオンラインで開催され、そこで最高賞となり、もう1つの広告賞「D&AD」でも高位の賞を獲得した。なおWhopper(ワッパー)とは、バーガーキングの最もスタンダードなハンバーガーのことである。
バーガーキング「Moldy Whopper」
この45秒の動画は、全編ワッパーのアップ映像で、他の映像要素は、一切出て来ない。始まりは、ワッパーがつくり上げられる映像。そこに、「ワッパー、1日目」の文字が現れる。聞こえてくるのは、かなりムーディな女性ボーカルの楽曲。たぶん恋愛に関して、「1日というのは、とても大きな変化をもたらす」といった類のことを、情緒たっぷりに歌い上げている。
早回しと思われる映像では、野菜がしおれ、パンも元気がなくなり、やがて、なんとカビが生えてくる。さらなるアップで写される映像では、ワッパーにカビが生えていく様子が延々と映される。
ワッパー全体が青カビのようなもので覆われたあたりで映像が止まり、「ワッパー、34日目」の文字が出る。そして、その後に「人工保存料無添加の美しさ」というメッセージが登場する。
普通であれば見せたくない、カビだらけの自社商品を延々と見せ続け、それを「美しさ」とまで表現することで、「人工保存料無添加」という商品の特徴を、強力に訴求することに成功した広告だ。
ホンネをぶつけて新しい関係を
さて、我々はこの事例から、何を学べば良いだろう?
いわゆる目下の人に対して、目上の側は格好をつけがちである。部下に弱みを見せまいと、どうしても身構えてしまう。しかし、ダメなところはダメなところで、時には見せてしまったらどうだろう?
もちろん、そのダメなところは、何か良いところの裏返しでなければならないけれども。カビの生えたワッパーが、人工保存料無添加という美点の裏返しであるように。
子供たちに対しても、時に隙を見せたほうが、関係は上手く行く。完璧すぎる親に子供は親しみを感じないし、ただのプレッシャーになってしまう。父も母もツラいのだよと、時には愚痴くらい言ってみよう。ツラいけど頑張るよといった姿勢のほうが、子供たちは共感してくれそうだ。
公式的でお利口な発言だけではなく、時にホンネをぶつけてみる、晒してみる。そうしたことから、部下や家族との新しい関係が始まるかもしれない。
連載:先進事例に学ぶ広告コミュニケーションのいま
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