この戦術で「段違い」にしあわせになる
読者のフランシスが、彼のクリプトナイト「ハッカーニュース」(テック系スタートアップの情報サイト)を遮断したときのことを教えてくれた。
初めて完全にサイト断ちしたときは、興味深い記事やコメント欄の知的なやりとりが読めないのを物足りなく思ったが、意外にも心の健康が高まるという見返りがあったそうだ。
「1日40回もサイトを覗いて、スタートアップの華々しい売却話と自分の境遇を比べて落ち込んだりしなくなった」
読者のハリエットの体験談はもっと極端だ。ハリエットのクリプトナイトはフェイスブックで、それもただ気が散るだけでなく、危険な依存状態だった。
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「全部のメッセージに返信しなくてはといつも焦り、スマホに釘づけだった。私の仕事スペースは人から丸見えなのに、仕事をしているふりをする気もなくなっていた」
このままじゃいけない、とハリエットは気づいた。
とりあえず1週間、フェイスブック断ちをすることに決め、すべてのデバイスからフェイスブックのアプリを削除した。
もちろん簡単ではなかったが、1週間が終わるころには、もう戻りたくなくなっていた。
「戻ることを考えただけでゾッとしたから、もう1週間断つことにした。2週間が2カ月になり、かれこれもう10カ月になるわ」
フェイスブックをやめることに支障がなかったわけじゃない。友人たちはフェイスブックで集まりを企画することが多く、例外を認めなかった。
「完全に輪から外れてしまった。自分で会を企画するときも、昔からの友人としか連絡がとれない。といっても、それもここ数カ月で何回かしかなかった」
それでも彼女は戻らなかった。
「いろいろあったけど、いまのほうがずっとしあわせ。劇的に、段違いにしあわせ。どん底まで落ち込んだころは、脳をコントロールできなくなったかと思った。情報を見逃そうが、計画が多少面倒になろうが、自分の心を取り戻せた喜びを思えばなんでもない」
いったん抜け出せば、すがすがしい気持ちになれる
フェイスブックをやめたことで立ち消えになった友情と、強くなった友情があると、ハリエットは言う。彼女に本当に会いたいと思ってくれる友人や、彼女が本当に会いたい友人は、電話やメール、ショートメッセージなどで連絡をくれた。
「べつに通信不能になったわけじゃない」とハリエットは言う。「だから、無限の泉に当面戻るつもりはない」
ハリエットがフェイスブックで経験したことはたしかに極端だが、僕らはほかにも同じような話をたくさん聞いている。
散漫クリプトナイトから抜け出せば、すがすがしい気持ちになれる。喜びと安らぎ、自由を実感できる。輪から外れるのは怖いが、いったん外れてしまえば、じつは気分のいいものだとわかる。