著者のジェイク・ナップはグーグルで、ジョン・ゼラツキーはユーチューブで、人の目を「1分、1秒」でも多く引きつける仕組みを研究し続けてきた「依存のプロ」だ。
そんな人間心理のメカニズムを知り尽くした2人だからこそ、同書の時間術はユニークかつ、きわめて本質を突いている。「人間の『意志力』などほとんど役に立たない」という、徹底して冷めた現実的な視点からすべてが組み立てられているのだ。
では、このテクノロジー全盛のスピードの速すぎる世界で、人生を本当に豊かにするには、いったい時間をどう扱うべきか? 以下では同書から、「勤勉」な人ほど陥ってしまいがちなトラップについての指摘を紹介したい。いつも忙しそうにしていて、帰りがけにも「あと1つだけ!」と仕事をつめこんでしまうほど勤勉な人は、実際にはむしろ生産性が低いという。その理由とは? 同書の一部を抜粋して紹介する。
「あと1つだけ!」で、かえって成果が出なくなる
1日の終わりが来ても、なかなか仕事をやめられないことがある。忙しいことこそを正義とする世の「多忙中毒」というべきの風潮に流されて、つい「もう1つだけ」やろうとしてしまうのだ。メールをもう1通。タスクをもう1つ。疲れ果てるまで働いたあげく、寝る前にまたメールをチェックする。
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そう、自分からワナにはまっているのだ。
多忙中毒の風潮があまりにも強いせいで、「1つ」でも多くのことをやるのが責任あるまじめな人の務めで、遅れずについていくにはそうするしかないと思わされている。
でも、そうじゃない。
疲れ果てるまで働くと、かえって遅れをとりやすくなるのだ。必要な休息がとれないから、優先度の高い仕事で最高の成果を挙げられない。
「もう1つだけ」仕事をつめこもうとするのは、ガス欠の車で走り続けるようなものだ。どんなにアクセルを踏み込んでも、タンクが空では進めない。立ち止まって燃料を補給する必要がある。
スプリント(著者がグーグルで開発した、チームの生産性を最大化する仕事術)では、メンバーが疲れ切る前に1日を終わりにすると、1週間の生産性が劇的に高まることがわかった。1日の労働時間を30分短くするだけでも、大きな違いがあった。(注:スプリントの詳細については、書籍『SPRINT 最速仕事術』をご参照ください)。