中国の一部の建設現場では、労働スタッフ各人の顔、名前、所属、業務、連絡先、出退勤時間、休憩時間などのデータを学習・登録した上で固有の識別番号を付与。監視カメラを通じて行動を細かく観察する手法が導入され始めている。
同AI監視システムは、撮影されたリアルタイム動画から行動を検知。与えられた仕事を適切にこなしているか、作業を行うふりをしてさぼっているかなど、これまで人間のスタッフが判断・運用を行ってきた「働き方に対する監督業務」を代替している。いわば「現場監督のAI化」だ。
より具体的には、労働スタッフがスマートフォンを触ったり、タバコを吸う挙動を発見すると、AIシステムは監督スタッフに即座に通知を行う。安全管理にも活用されており、ヘルメットの未装着、危険エリアへの侵入、労働スタッフ同士の諍いなどが発生した際にも同様に通知を行う。仮にトラブルが発生した場合には、現場証拠として警察に動画や解析結果が提示されることもあるそうだ。
報告書は「システムは24時間にわたり監視が可能で、業務の遅れや不足を防止する効果がある。従来の監督業務を大幅に削減している」と肯定的な評価を行っている。というのも、中国は世界で最も多く建設作業員を雇用している国である反面、これまで建設現場へのAI実装が他分野に比べて遅れてきたという背景事情がある。現在、中国第三位の国営企業・中国石油天然ガス公社(CNPC)が、中国全域にある建設現場10数カ所に同AIシステムを導入しており、今後、ユースケースはさらに広がりを見せていく気配だという。
現場における労働をAIで監視するという行為は、日本を含む欧米諸国では受け入れられ難いだろう。プライバシーや労働者の権利を、著しく侵す可能性があり反発必至だからだ。実際、米国企業を中心に、コロナ禍対策としてソーシャルディスタンスを保つための監督技術が工場に導入され始めているが、人工知能で個人および働き方まで特定するとしているケースは皆無だ。
治安に加え、労働者の監視にまでAIを利用し始めた中国。今後、経営者や管理側だけでなく、労働者側のメリットを提示していくことがいずれ強く求められていくかもしれない。
連載:AI通信「こんなとこにも人工知能」
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