パンデミックとの闘いにおいて、エストニアの医師、看護師、役所は、電子カルテや電子処方箋のおかげで無駄なく仕事をすることができました。強力な官民パートナーシップにより、日常生活における手続きは国境通過までもが非接触でできるようになっています。
このようにシームレスなオンラインサービスを実現できたのは、エストニアが他国に先駆けてデジタルIDの使用を進めてきたからです。公式の決定にはその証明として電子スタンプが付与され、個人も電子署名を利用できます。エストニアの法律は、こうした電子証明を実際の判子や署名と同じように扱うことを定めています。
エストニア政府は、デジタル化に積極的に取り組んできました。今回の危機以前から、内閣では、閣僚が電子IDを使って出席するオンライン閣議が開催され、2019年の議会選挙では、有権者の43.8%が電子投票を行いました。ロックダウン中には、政府は世界規模のオンラインハッカソンを開催し、新型コロナウイルス感染拡大に関する課題に力を合わせて取り組むよう人々に求めました。そこから、パンデミックに関する質問の自動応答サービス、そして実際に支援を必要としている人とボランティアを結びつけるプラットフォームなどが生まれました。
大学もたった1日でリモート授業に
エストニアでは、危機以前から既に電子化ソリューションを活用していた学校は87%。教師たちは、デジタル教育とインターネットの安全性に関するトレーニングを受けています。そして、2015年までにすべての教材をデジタル化するという目標も掲げ、取り組んできました。世界中の10代の若者たちの学習到達度を測るテスト「PISA」で、2018年エストニアはヨーロッパで1位になりました。この成功の一因は、デジタル戦略にあります。エストニアでは、どこにいても、ほぼ常に無料で、ワイヤレスインターネットアクセスを利用することができます。新型コロナウイルス感染拡大の危機の中、エストニアは北欧の他の7カ国とともに、世界中の教育システムを支援するデジタル教育ツールを提供しました。
ロックダウンが始まるとともに、生徒たちが自宅からオンラインの教室にアクセスできるよう、学校がコンピューターやタブレットの貸し出しを行いました。多くのIT企業や個人からも、生徒たちのために中古デバイスが寄贈されました。
これは、学校や大学が閉鎖されてから、必死にデジタル教育への切り替えを試みた世界の多くの国の姿とは対照的です。イギリスでは、休校中に4割の生徒が教師と定期的な連絡を取っていなかったことが調査で明らかとなり、何百万人もの生徒の学習の遅れが懸念されています。アメリカでは、公立高校に通っていた多くの子どもたちの教育機会が失われました。こうした教育格差は、広範な社会的・経済的余波を生み出しかねず、エストニアの例に倣い行動を起こすことが急務となっています。
エストニアのデジタルレジリエンスは、高等教育においても発揮されています。世界がロックダウンを行った時、エストニアのタルトゥ大学はたった1日でリモート授業への切り替えを達成。これができたのは、デジタル技術と教材が既に配備されていたからです。