最先端の電子政府エストニアは新型コロナにどう対応したか

新型コロナウイルスのパンデミックにおいて、デジタルインフラはエストニアの救世主となった (Shutterstock)


1995年からのデジタル政策で築いた国民との信頼


世界中の国が、このデジタル戦略の後に続こうと急いでいますが、エストニアのデジタルにおける成功は一晩でなしえたものではありません。何十年にもわたる投資と実験の結果であり、問題は技術面だけではありません。鍵となるのは、信頼です。エストニアの人々は、政府に対し、国民の役に立ち、国民を守るデジタルシステムを構築してくれるという信頼があったのです。

政府デジタルアドバイザーのマルテン・カエバッツ氏は、エストニアが独立を取り戻したばかりの1990年代にデジタルトランスフォーメーションが始まったと振り返ります。当時、エストニアにとってデジタル化は、単なる技術革新や経済発展ではなく、活気に満ちた民主主義国家を築くためのものでした。

「1995年に私たちがデジタル社会の構築に着手した時、その目的は、より透明性、信頼性、効率性の高い社会を構築することでした」とカエバッツ氏。「この過程を一歩一歩進める中で、国民はサービスを高く評価し、その安全性と効率性を理解するようになりました。これが、政府によるオンラインサービス普及のための重要な鍵でした」。

プライバシーの扱いに関しては、さまざまな法律や規則に定められています。エストニア国民は健康などの個人データの所有権を有し、その閲覧者をオンラインで確認できます。役所が正当な理由なしにこのデータを閲覧および使用することは禁じられています。国民には健康データへのアクセスをブロックする権限も与えられています。

公共データの収集は「一度きり」の原則に従って行われます。役所が住所変更などのひとつの情報を請求できるのは一度だけ。他の公的機関は、中央レジストリからこの情報を取得し、当人に再度連絡することはありません。同じ書類に何度も記入してもらう必要がないため、特に給付を行う際にはとても便利です。

必要なのはビジョンの共有と人権の尊重


エストニアにとってデジタル化はゴールではなく、すべての国民の生活をよりシンプルに、そしてより良くするためのツールでした。その実現のためには、有効利用を確実にするための法整備や、一貫した政治的意思が必要でした。エストニアのICTクラスターマネージャー、ドリス・ポールド氏は、「デジタル化に優先的に取り組む、デジタル思考のリーダーシップが不可欠」と述べています。

現在の危機の中で、エストニアの培った信用と先見性は報われました。この成功は、画期的なデジタルプロジェクトとして捉えられることが多いですが、本当に重要なのは、ビジョンの共有と、包摂性、公平性、そして個人の権利の尊重です。これらの価値観はエストニアのソーシャル・コントラクト(社会契約)の核であり、官民パートナーシップの基礎を形成するものでもあります。そして、この危機を耐え抜き、よりレジリエントな未来の社会作りを支えてくれるのもまた、これらの価値観でしょう。


(この記事は、世界経済フォーラムのAgendaから転載したものです)

連載:世界が直面する課題の解決方法
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文=Jana Silaškova, e-Governance Project Manager , Estonian Association of Information Technology And Telecommunications (ITL) / Masao Takahashi, Head of Institutional Membership; Member of Executive Committee, World Economic Forum

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