著者のジェイク・ナップはグーグルで、ジョン・ゼラツキーはユーチューブで、人の目を「1分、1秒」でも多く引きつける仕組みを研究し続けてきた「依存のプロ」だ。
そんな人間心理のメカニズムを知り尽くした2人だからこそ、同書の時間術はユニークかつ、きわめて本質を突いている。「人間の『意志力』などほとんど役に立たない」という、徹底して冷めた現実的な視点からすべてが組み立てられているのだ。
さらに、「いくら生産性を上げても、ひたすら他人の期待に応えているだけ」で、自分のためになっているわけではないという。では、このテクノロジー全盛のスピードの速すぎる世界で、人生を本当に豊かにするには、いったい時間をどう扱うべきか? 「ダイヤモンド・オンライン」からの転載で、同書より「メール」についての記述を一部抜粋して紹介する。
即レスは「相手」にとっては最高
受信箱をコントロールするには、「できる限り早く」から「許される限り遅く」への方針転換が何より必要だ。メールやメッセージにはゆっくり返信する。数時間、数日、ときには数週間置いてから連絡をとろう。ひどいやり方だと思うかもしれないが、そんなことはない。
実生活では、誰かに話しかけられたら、すぐに返事をする。「ミーティングどうだった?」と同僚に聞かれたら、前を凝視したまま聞こえないふりなんかしない。あたりまえだ。そんなの失礼すぎる。
普通の会話ではすぐに返事をするのがデフォルト(初期設定)になっている。そしてそれはよいデフォルトだ。礼儀にかなっているし、協力的だ。だが「即答」のデフォルトをデジタルの世界に持ち込むと、大変なことになる。
ネットでは、物理的に近くにいる大事な人に限らず、誰でもあなたに連絡をとることができる。彼らは(あなたのではなく)自分の都合のよい時間に、(あなたのではなく)自分の優先事項について尋ねてくる。
そしてあなたは、メールその他のメッセージをチェックするたび、こう聞いて回っているようなものだ。
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「私の時間をいま必要な人はいませんか?」
また、すぐに返信するのは、彼らと自分自身にこんなメッセージを送っているようなものだ。
「あなたがどこの誰で、用件が何であれ、私は自分の優先事項を差し置いて、あなたの優先事項のために時間をつくりますよ」
こう書いてみると、とんでもない気がするだろう? だがこのとんでもない即レスこそが、現代文化のデフォルト行動だ。それは「忙しいことこそ正義だ」という、いまの世の「多忙中毒」というべき風潮を支える柱になっている。
強い信念で「即レス文化」を拒絶する
このばかげたデフォルトは変えられる。受信箱をチェックする頻度を下げ、メッセージがたまるまで放っておき、まとめて処理すればいい。返信を遅くすれば、まとめて集中できる時間(本書の用語で言う「レーザーモード」の時間)が増える。
ひどいやつだと思われるのが心配なら、「集中力を高め、マインドフルな状態でいれば、彼らの同僚や友人としてもっと役に立てるのだから」と、自分に言い聞かせよう。
「多忙中毒」の即レス文化はとても強力なため、それを振り切って方針転換するには信念が必要だ。