グーグル社員が自分のスマホからGmailを削除したワケ

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僕は自分にがっかりしただけでなく、猛烈に腹が立った。怒りにまかせてスマホからツイッター、フェイスブック、インスタグラムのアプリを削除した。ホーム画面から1つアイコンが消えるたび、心の重しが取り除かれるような気がした。

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それからGmailのアプリを見て歯ぎしりした。当時僕はグーグルにいて、Gmailのチームで何年も開発に取り組んでいたのだ。僕はGmailを愛していた。それでも心を鬼にした。そのとき画面に表示されたメッセージを、いまも覚えている。信じられないとでもいうかのように、本気でアプリを削除するつもりなのかと聞いてきたのだ。僕はゴクリと唾を飲み込み、「削除」をタップした。

アプリがなくなったら不安や孤独を感じるのではないかと思っていた。その後の何日かで、たしかに心に変化があった。といっても、ストレスを感じたんじゃない。むしろホッとして、解放感を覚えていた。

ほんの少しでも退屈するとiPhoneに反射的に手を伸ばすクセがなくなった。子どもたちとの時間は、いい意味でゆっくりすぎていった。

「なんてこったい」と僕は思った。「iPhoneですら毎日を豊かにする役に立っていなかったのなら、ほかはどうなんだ?」

僕はiPhoneと、iPhoneがくれる未来的な能力を愛していた。でもその能力とセットでやってきたデフォルトをそっくりそのまま受け入れたせいで、僕はポケットのなかのピカピカのデバイスにいつも縛られていたのだ。

「リセット」できるものを洗い出す


自分の生活にはほかに考え直し、リセットし、デザインし直さなくてはならない部分がどれだけあるだろうと考えた。何も考えずに受け入れてしまっているデフォルトはどこにある? そして主導権を取り戻すにはどうしたらいいのか?

iPhoneの実験のすぐあとに、僕は新しい仕事に移った。まだグーグルにいたが、社外のスタートアップに投資を行うベンチャーキャピタル、グーグル・ベンチャーズ(現GV)の所属になったのだ。

そこで初日に出会ったのが、ジョン・ゼラツキーという男だ。

最初、ジョンのことを嫌いになろうとした。ジョンは僕より若いうえに、正直ルックスも僕よりいい。そのうえいけ好かないのは、いつも穏やかなところだ。ジョンがストレスに苦しむ姿なんて見たことがない。

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重要な仕事を予定より早く終わらせ、サイドプロジェクトの時間まで見つけている。早く起き、早く仕事をすませ、早く帰宅する。いつもにこやかにほほえんでいる。なんでそんなことができるのか?

とはいえ、僕は結局ジョン、通称JZと仲よくなった。JZとはとてもウマが合うことがすぐわかった──いまでは兄弟同然だ。

JZも僕と同じで、多忙をよしとする風潮にうんざりしていた。僕らは2人ともテック好きで、技術系サービスのデザインに長年関わっていた(僕がGmailのチームにいたとき、JZはYouTubeにいた)。だが僕らはそうしたサービスに膨大な注意と時間が浪費されていることにも気づき始めていた。

そしてJZも僕と同じく、この現状を何とかしなければと思っていた。JZはこの問題に関しては、オビ=ワン・ケノービ的存在だった──ローブの代わりにチェックのシャツとジーンズを身にまとい、フォースの道の代わりに「システム」を信奉しているという点だけが違った。

気を散らすものを遠ざける「システム」


彼の説く「システム」は神秘的ですらあった。まだ具体的なかたちにはなっていなかったが、「そういうものがたしかにある」とJZは信じていた。「システム」とは要するに、気を散らすものを遠ざけ、エネルギーを保ち、もっと時間をつくるためのシンプルな枠組みだ。

ちょっと引くだろう? 僕も最初はそうだった。でも彼が「システム」について語るのを聞きながら、いつしか激しくうなずいている自分がいた。古代人類史や進化心理学にくわしいJZは、僕らの狩猟採集民としてのルーツと、めまぐるしい現代世界とのあいだの大きなギャップに、問題の一端があると考えていた。

また彼はプロダクトデザイナーの視点から、この「システム」を機能させるには、意志力だけに頼って気を散らすものと戦い続けるより、デフォルトを変更してそういうものから距離を置くしかないと考えていた。

そうか、と僕は気づいた。この「システム」とやらは、もし本当に完成させることができれば、まさに僕が求めていたものになる。

そんなわけで僕はJZとタッグを組んで、冒険の旅に乗り出したのだ。
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