米軍公表「UFO」動画と、報告されなかった自衛隊の体験

Official U.S. Navy Web siteより


こうした現象を、当事者たちはどう考えているのだろうか。自衛隊元幹部に証言した米軍パイロットたちがおおむね結論づけていたのは、「民間などが非公式に開発していた物体なのではないか」というものだった。宇宙人が搭乗した円盤だと本気で信じている人は誰もいなかったという。

元幹部は「回転したり、高速移動したりする技術は、未知のものではない。ペンタゴン(国防総省)が今回発表に踏み切ったのも、こうした未確認の飛行物体などが増えることに警告を発する意味があったのではないか」と語る。今や世界中の空や宇宙空間では、「未登録のドローンや軍事衛星、デブリと呼ばれる宇宙ゴミなどが散乱し、安全が十分確保できない」という声が専門家の間で上がっている。

日本でも2015年4月、首相官邸の屋上でドローンが見つかり、大騒ぎになった。結局、反原発を訴えた無職の男が威力業務妨害の疑いで逮捕されたが、この事件を契機に、航空法の改正などが進んだ。官邸や在外公館など重要施設周辺でのドローンの飛行が禁止されたほか、警視庁は、ドローンを網で捕獲する遠隔操作式ドローンを備えた無人航空機対処部隊(IDT)を発足させた。

ただ、今年6月には仙台上空などで白い球体が発見され、騒ぎになった。警察も、市民に直接的な被害が及ぶと判断できれば、正当防衛や緊急避難を適用して球体を排除することもできるだろうが、確認は容易ではない。そもそもIDTのような装備を備えたチームが、全国の県警本部にあるわけでもない。別の自衛隊幹部に「自衛隊は対応しないのか」と尋ねたら、「外国から飛来したと確認できれば対領空侵犯措置を執れるだろうが、それもわからないし」と歯切れが悪かった。

結局、この白い球体は、どこかへ飛んで行ってしまった。仙台上空での事件は、「水と安全はただ」という日本の神話を突き崩す事例を、またひとつ作る結果になったと言えそうだ。

ちなみに、色々な自衛隊の知人に聞いて回った結果、自衛隊にはUFOについての公式データはない、ということだった。元空自幹部も「うーん、秘の文書があるのかもしれないけど、自分が在職中にそんなデータや書類を目にしたことはないねえ」と笑った。国防総省の映像公表を受け、「万が一、(UFOに)遭遇した時の手順をしっかり定めたい」と語った河野太郎防衛相の今後の指導力に期待したい。

文=牧野愛博

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