市場調査会社「グローバルインフォメーション」によると、e-バイクの市場規模は2019年に154億2000万ドル(約1兆6500億円)まで広がり、2020年以降の5年間で年平均成長率(CAGR)は6.21%になるとも予測しているそうだ。
そもそも電動アシスト付きのスポーツバイクには「e-クロスバイク」「e-ロードバイク」「e-MTB」などがあり、これらが総じてe-バイクと呼ばれている。
日本で自転車といえばいわゆるママチャリが主流だが、主に買い物の荷運び用かつ短距離移動用のママチャリは欧米には存在せず、これは日本独自に進化した自転車である。欧米ではアクティビティとして楽しまれるマウンテンバイクや、ママチャリよりも速く走れるシティサイクル、舗装路を高速で走るロードバイクが自転車の主流でありママチャリという自転車はほぼ見かけない。
電動アシスト機能がクロスバイクやマウンテンバイク、ロードバイクにあることで、険しい坂道や凹凸のある山道などでも快適に走ることができ、よりスポーツ的要素の強い楽しみ方ができることはもちろん、街中でも高い走行性、長距離での移動が可能になる。
そんな急成長著しいe-バイク業界で特に注目を集めているのが、「e-クロスバイク【VADO SL】」を発売したアメリカの「Specialized(スペシャライズド)」だ。
自然なペダリングで速く、快適に走れるVADO SLは平均的なe-バイクより40%軽いため、階段を担いで自宅に保管する際や、段差や方向転換の際に簡単に持ち上げられたりと利便性が高いのがポイント。通勤や買い物、週末のフィットネスはもちろん、時速24kmまでアシストで快適に楽しく乗ることができる。
世界最大のロードバイクの大会、ツールドフランスなどでも結果を残し、欧米では高い機能性と美しいフォルムから、自転車愛好家なら一度は乗ってみたいと言われる「Specialized」。果たしてどんな自転車メーカーなのか。
マウンテンバイク「スタンプジャンパー」の成功、そして訪れた試練とは
「Specialized」が誕生したのは1974年のアメリカ。創立者のマイク・シンヤードが大学卒業後、ヨーロッパ縦断旅行の際に、イタリアの自転車メーカー「チネリ」や「カンパニョーロ」の関係者と出会ったことから、アメリカへの輸入権利を獲得。当初は卸売業として、ヨーロッパで自転車の部品を購入、アメリカで販売するビジネスを始めた。
その後、輸入販売を繰り返すうちに、ライダーの特性が見えてきたことによって自社オリジナルの「ターボタイヤ」を開発、販売し自転車メーカーへと発展していったという。
1980年代に入り、アメリカの西海岸では自転車好きのヒッピーたちの間で砂浜や海岸沿いでサーフボードを抱えて走るために作られた自転車「ビーチクルーザー」で山を下る遊びが流行りだし、徐々に「マウンテンバイキング」として盛り上がるとともにプロダクトとしてのマウンテンバイクも熟成されていった。
そこでSpecializedは、その遊びを広めるため、世界初の量産型マウンテンバイクである「スタンプジャンパー (Stumpjumper)」を販売し一大ブームを巻き起した。
発売当時のスタンプジャンパー (Stumpjumper) 広告
アメリカの80年代カルチャーの一つとなったスタンプジャンパーは、新しい自転車の文化とライフスタイルを切り開いた功績が認められ、スミソニアン協会の永久所蔵品にも加えられた。ちなみにこのスタンプジャンパーのフレームは日本製。マイク・シンヤードが日本の技術力を見込んで作らせたという。
そしてスタンプジャンパーの成功によりさらなる進化を目指したSpecializedだが、90年代中盤になり試練が訪れる。ライダー目線での自転車作りよりもビジネス拡大を重視し廉価版の自転車を販売したことで、それまでSpecializedの自転車を愛用していたユーザーや販売店が離れる事態に陥ったのだ。
この経験を教訓として、ライダー目線の自転車づくりを再起。「ライダーによるライダーのためのバイクブランド」「ザ・ライダー イズ ザ ボス」をモットーとしてユーザー目線を重視、顧客の信頼復活へと向き合うことになる。
まずはナイキのクリエイティブディレクターやアディダスのCEOなどを務めたアマチュアサイクリストであるピーター・ムーアからのアドバイスを受け、会社のブランドブックを作成し全従業員に配布。ライダー目線であることやブランド哲学を社員に周知させることによって企業体制を強固にした。[参考記事]
そして技術面では、社是である「Innovate or die(革新を、さもなくば死を)」の元、人間工学を用いたデザインを取り入れたプロダクト開発や、今までの常識を覆すデータ主導型の開発方法の構築もF1で有名なマクラーレンとの協業を経て実施されている。
さらには自転車メーカーとしては当時唯一の風洞実験場である「WIN TUNNEL(ウィントンネル)」を建築し「Aero is everything(エアロこそすべて)」のスローガンを掲げて、プロダクトのカタチそのものを再定義するとともに、新たなカルチャーやイノベーションを産み出していった。
これらを経てユーザーからの信頼を復活させ、さらには五輪種目となったマウンテンバイクや、世界三大スポーツイベントである「ツールドフランス」などでサポートした選手・チームが成功を納めることにより、世界の自転車愛好家から支持されるブランドへと復活を遂げたのだ。
Specialized創立者 マイク・シンヤード
ライダーは馬力より軽快感を自転車に求めた。発想の転換へ
まだe-バイクという言葉もほとんど聞くことができなかった2010年ごろには既に開発を開始。創立者のマイク・シンヤードは、90年代にマウンテンバイクの時代がきたように、これからはe-バイクの時代がくると読み開発に着手し、スポーツバイクメーカーとしては唯一自社でモーターバッテリーも開発し、2012年に「ターボS」を発表した。
ターボSの発表後も、第一世代モーター・第二世代モーターと開発を続け新しいバイクを発表したが、その過程で“ある事実”が明らかとなる。
市場の多くのe-バイクは、速さやパワーを重視しつつ、重量やバッテリー容量などを強化していく開発がメインであった。それはスペシャライズドも同様であったが、実際にライダー達がどのようにアシストを使っているのかを検証したところ、大半が強いアシストではなく、自然なアシスト力であくまでも自分の力でサイクリングすることを重視していることがわかったのだ。
そしてこれはスペシャライズドのe-バイクがアプリを通じてスマートフォンとバイクを連携させることができ、そのデータを蓄積することで判明した事実であり、ライダー目線の自転車づくりを徹底する企業風土が定着している証でもあった。
そこで方針を転換し、軽く自然なアシストフィールを追求したモーターの開発に着手した。パワーやスピードは「ターボS」に比べて弱くなるが軽量化を目指し、電動アシストのバッテリーが切れた後も普通のクロスバイクとして漕ぎやすい軽快な走りができる自転車づくりを目指した。
その最新型として誕生したのが「e-クロスバイク【VADO SL】」だ。SLはスーパーライトの意味で、約15kgという車体重量になっている。自社開発のSL 1.1専用軽量モーター、そして320Whの内蔵バッテリーは最長約130km、オプションのレンジエクステンダーでさらに最長約65kmの走行が可能となる。
日本の平均的な電動アシスト付き自転車の重量は20〜30kgであることから、VADO SLは階段などで担いでの移動や室内での保管などという時に持ち運びやすいメリットがある。
また軽量化の副産物として、一般的な自転車と見分けがつかないスタイリッシュなフォルムに出来上がっている。一般的なアシスト付き自転車は重量が重いことから特に女性は狭い道での方向転換などが難しいが、VADO SLはその軽量さから難なく持ち上げられ、楽に切り返しが可能なことも魅力の一つだ。
モーターは時速24kmまでアシストし、最長130kmの走行が可能。一般的なEバイクより40%も軽く、その重要はわずか14.9kg。
明確なビジョン、そして結果を残すことがブランド力に
Specializedの自転車を所有することの意味は何か──。スペシャライズド・ジャパン合同会社マーケティング担当の佐々木雄治はこう語る。
我々には『Pedaling the planet forward(地球をペダルで回していく=自転車と人で地球を良くしていく)』という明確なビジョンがあり、ライダーたちの生活の質を向上させる革新的な商品を出し続けていること。さらに、ツールドフランスなどに代表されるコンペティションでサポートする選手やチームが結果を出し続けていることなどが、顧客が『Specialized』というブランドを信頼してくれている要因であると思っています」
電動アシストにより、長かったり辛かったりする道でも、純粋にサイクリングの素晴らしさを誰もが楽に体験できる──それがSpecializedのe-バイクだと、佐々木は強調する。
「日本では短い距離の移動手段として自転車に乗ることが主流ですが、例えば普通の人は自転車で登ろうなんて思わない山の上にあるカフェなど、いい景色と達成感が得られる場所にVADO SLで遊びに行ってほしいですね」
「Pedaling the planet forward」にはバイクで地球をより住みよい場所にしていきたいというSpecializedの思いが込められている。
アフターコロナの影響の一つとして、自転車通勤、自転車移動の人口が増えている。今後は距離や脚力、用途に応じたe-バイクのユーザーが増えることが想定され、自転車専用道路の拡充やルールの制定、またはトレイルライドといった、自然の中でサイクリングが楽しめる場所が増えていくことも期待できるだろう。
スポーティかつアーバンライドな乗り方ができるVADO SLなら街とアウトドア、オンとオフ、両方で快適な走りを楽しむことが可能となる。自転車だからこそ発見できる、新しく広がる世界を見つかるはずだ。
スペシャライズド・ジャパン
https://www.specialized.com/