世界漫遊の放送作家が教える「旅番組の舞台裏」


その一方で、佐藤生花店は冠婚葬祭やイベントなどに供される花の下請けも行なっていた。注文はひっきりなしに入り、和美さんは多くのスタッフを抱え、年中無休で働き続けてきた。

「結婚して子供を産んでからもずっと花屋をやってきたので、家族で旅行にも行けず、子供の運動会や遠足にも行けず……。そんな苦労のなかで仕事を続けてきたのに、元請け業者からは文句を言われたりして。小さな頃からの夢であった花屋にはなったけれど、私は何のために働いているのかなと疑心暗鬼にもなりました。花屋をやっていて、全然楽しくなかったんですね」

寄せ植えを学び、SNSでも発信


自分が思い描いていた花屋とは、こんなものではない。そう思った和美さんは、大きな決断を下した。

「自分が楽しめることをやろうと決めたんです。それで、これまでの下請け仕事を全部やめました。お店のスタッフは他の花屋さんに引き取ってもらって、仕事を全部リセットしたんです。これからは、自分のやりたいことをやろうと。そのために、お店をリニューアルしたんです」

売り上げの大半を占める下請けをやめることは、大きなリスクを伴った。実際、売り上げが10分の1ほどに落ち込んだ時期もあったという。それでも和美さんは自分の信じた道を突き進んだ。

流通網が発達した現代は、花の流通にも変革が起きている。消費者が生産者と直接取引が可能になったことで、小売店の存在意義も問われてきた。そのような現状に危機感を抱く和美さんは、営業形態を変えて以降、ネット販売やSNSでの発信にも力を入れてきた。寄せ植えの技法を学び、講師の資格を取得したのも、その一環だ。

「寄せ植えは、ひとつの鉢に何種類かの植物をいっしょに植えて楽しむやり方ですが、根っこがついたままなので、植物が長持ちするし、宅配で送りやすいんです。今は自宅に花瓶や花鋏がない家庭も多いと思いますが、貰ってすぐに飾れる鉢のタイプは手間もかかりませんし、喜ばれます。なるべく簡単に手入れできるというのも近頃の主流ですから、寄せ植えはお客様に受け入れられやすいんです。最近では、九州はもちろん、東京はじめ関東方面からも注文が入ります」


(c)EDITORS SAGA

新たな技術を貪欲に取り入れる一方で、長年腕を磨き続けてきた生花のアレンジメントも、変わらず地元のお客さんの信頼を集めている。「1日中花をいじっていても飽きない」という和美さん。営業形態の変化を経たいま、純粋に花と向き合える喜びを実感しているという。

「今回のコロナ禍で、家に花を飾る人も増えてきました。やっぱりお花を楽しむ余裕が大事なんだと思います。特に男性のなかには、花を持って歩くのも嫌だという人もいるようですが、そのようなわだかまりを解いて、誰もが気軽に花を買いやすくなる文化をつくっていきたいですね」

店舗の装いも新たに、佐藤生花店には新たな息吹が芽生えつつある。娘の凪さんが、店を手伝い始めたのだ。

文=鍵和田 昇、写真=EDITORS SAGA

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