その鳥栖駅からほど近く、昔ながらの飲食店が並ぶ通りを抜けて住宅街に差し掛かると、突然、味わいのあるモルタル造りの建物が現れる。可愛らしい植物に囲まれたアプローチにテーブルと椅子が並び、さながら南仏プロヴァンスのカフェのような佇まいのこの建物は、今年の2月にリニューアルオープンした佐藤生花店のものだ。
花を取り巻く時代の変化に
佐藤生花店は、昭和23年創業、70年以上にわたり鳥栖の街を彩ってきた老舗の花屋だ。
「鳥栖駅の近くといっても、ここは裏通りなので、人目を引くようにしたかったんです。そうしないと、お客様が来てもらえないと思ったので。昔から『こんなお店を持ちたい』という理想の店舗イメージがあったので、この仕上がりには大満足です」
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そう笑うのは、オーナーの川口和美さん、佐藤生花店の3代目だ。祖父、父と続く家業のなかで育った和美さんは、幼い頃から花屋になることを決めていたという。
「幼稚園の時にはもう花屋になると決めていて、作文にも将来の夢は花屋と書いていました。そのために高校も商業高校に進んで、簿記の資格を取りました。高校卒業後は、京都の池坊で本格的に花の勉強もしました。考えてみれば、ずっと花屋になるための勉強しかしてこなかったですね」
20歳で実家に戻り、家業を手伝い始めた和美さん。2003年に父が他界した後は、自らが店を継ぎ、久留米生花商組合の副組合長を務めるなど、地域の「花社会」を支えてきた。
長きにわたり地元に根付いて営業を続けてきた佐藤生花店。もともと和美さんの祖父が創業したきっかけは、お寺などで行われるいけばな教室のために、花材を用意することだったという。
「山に入って花材を調達してくれる“切り出し屋さん”という職人がいるのですが、彼らに『こんなものが欲しい』とオーダーするんです。花材は毎週変わるので、季節によってどんなものを用意するか考えるのが大変でもあり、楽しくもあり。でも、最近は切り出し屋さんが高齢になって山に行けなくなり、いけばなの先生方の希望に応えられなくなってきました」
花を取り巻く時代の変化は、それだけではない。人々の生活や建築様式が変わったことで華道を嗜む人が減り、家に花を飾る機会も減ってきた。それにともない、花の生産者や切り出し屋も減り、花や枝物、葉物の仕入れ価格が上がってきたのだ。和美さんは、自分が提供したい花を用意するのも難しくなってきたという。