ビジネス

2020.07.09

三井物産が創業2年目のスタートアップと「新会社」を設立したワケ

三井物産デジタル・アセットマネジメントの代表を務める上野貴司


「はっきり言って、反対の声はありました。それこそ、協業は結婚と同じで『合わない』となったときのデメリットも大きい。そのため、社内からは『本当に協業の相手がスタートアップで大丈夫なのか?』という議論もありました。事業パートナーとしての信用力は、実績があれば説得不要。しかし、LayerXに関しては、説得が必要だったことは事実です。当時はまだ、サービスもなかったですしね。そこで、メンバーのバックグラウンドや技術力ともに問題ないことを、半年ほどかけて説得しました」(上野)

そんな社内での説得が一気に進んだのが、2019年11月に発表した、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)とLayerXの協業だった。

「先を越されてしまったようで、少し悔しい気持ちもありました(笑)。でも、このニュースは社内を説得するには非常に有効でした。また参入にあたっての条件として『新しい金融事業に挑むからこそ、さらに金融の専門性を高めるべき』ということで、SMBC日興証券と三井住友信託銀行にもお声がけさせていただき、有り難いことに両社ともご賛同頂けたので正式にプロジェクトがスタートすることになりました」(上野)

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大手企業だからこそ「勘違いしてはいけない」


冒頭のとおり、最近ではスタートアップと手を組む大手企業が増えつつある。三井物産では、スタートアップに対する意識はどうだろうか?

「三井物産自体が、先進国のなかへ飛び込んだスタートアップでもあります。しかし、物流として輸入・輸出をつなぐだけでは企業として幅を広げられないことから、1980年代にスタートアップへの投資を開始。私自身も、2012〜2015年はシリコンバレーで投資をしていました。そこからさらに不動産アセットマネジメントを担当したり、会社を3つほど立ち上げたり…。おかげで、社内では“社内アントレプレナー”と呼ばれています(笑)」(上野)

「委託・受託の関係じゃないほうがいい」という勘所も、上野自身の経験値から来たものだった。

「委託・受託の関係性に関するノウハウは、すべてこれまでの経験から得たものです。会社や事業は、半年〜1年で立ち上がるものではないですよね?長い月日をかけるからこそ、関係性は大事です。委託・受託は抜けられると『どうしよう』となりますが、会社だったら残りますしね。

“同じ船に乗る”ということは、お互いに腹落ちしながら進めていくことが求められます。そこで重要になるのが株分配。一社だけで持ち過ぎると、単独でやっていることになってしまう。そのためMDMではJV(共同企業体)としたんです」(上野)

とは言え、大手企業とスタートアップの協業でうまくいくケースはまだ少ない。それについて上野は「勘違いが原因」と語る。

「大手企業に限ったことではありませんが、大きな会社=大きな力を持っていると勘違いするところが、うまくいかない原因だと思っています。今回、私は社長というポジションですが、自分が偉いなどとは思っていなくて。野球ではピッチャーやキャッチャーがいるように、役割が違うだけなんですよね。それは、私も気をつけながら進めているところです」(上野)
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文=福岡夏樹 写真=小田駿一

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