「運命の出会い」はスローに訪れる 令和のマッチング事情を考察

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「運命の出会い」はスローに訪れる


こうしたコミュニティのありかたを見るに、きれいごとだけでは片づけられない人間の本性や深淵を覗いてしまったような気持ちになる。ただ、こうしたPUAは極論としても、マッチングアプリで「良い人」を選別して出会いたいというニーズは男女ともに変わらない。そのような発想は否定されるべきものでもないし、そうしたニーズがあるからこそマッチングアプリは隆盛していると言える。

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ではどう考えるべきか。ここで、当連載の前回の記事「荒れるSNS コロナ禍でも健康的に使いこなす「遅い思考」のススメ」でも導入したファスト/スローの考え方を活かしてみよう。

現代のマッチングアプリをフィールドワーク的に解き明かした、アジズ・アンサリ著『当世出会い事情──スマホ時代の恋愛社会学』は、男女の出会いがどのように変化したのかを説得的に描き出している。独身率が高まりつづける現代と、手近な相手と若くして結婚していた昔を比較し、その良し悪しを明らかにしながら、現代ならではの出会いの可能性を探るという趣旨の本だ。

筆者が感心したのは、アジズ・アンサリ氏が各種マッチングアプリを実際に自分で試しながら、その高揚感や楽しさと、ハマればハマるほどに湧き上がっていくる「これでいいんだっけ?」という心理に、真摯に向き合っているところだ。こういった形での出会いを道徳的に断罪して、単純な「スッキリ!」に落とし込みはしない。楽しいという抗いがたい魅力も認めた上で、その課題点を正しく指摘しているのだ。

私たちはマッチングアプリの力を借りることで、自分好みの条件でフィルタリングして、多くの候補からこれぞという相手を手軽に選べるようになっている──。だが、その「選び放題」の環境は私たちを幸福にしたのか? それこそが問題だ。私たちが信じてやまない「合理的な選択」というものの全能感をカームダウンしてくれる点にこそ価値があると思う。

アジズ・アンサリ氏の結論をシンプルにまとめると、運命の出会いは「見つける」ものではなく、「つくっていく」ものだということに帰着する。筆者も同意する。情報との付き合い方同様に、ファストな快感から身を置き、人と人との関係性においてもスローな側面に目を向ける必要があると言えるだろう。「運命の出会い」は、(ファストではなく)スローに訪れるのだ。

連載:SNSマーケティングを社会学的に考える
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文=天野 彬

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