「運命の出会い」はスローに訪れる 令和のマッチング事情を考察

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PUAインフルエンサーとダイナミックプライシング


その課金という視点からいま静かに水面下で広がっている現象に筆者は注目している。それは、「PUAインフルエンサー達によるnote値上げ商法」だ。順を追って説明していきたい。

PUAについての説明は冒頭に記しておいたが、確認すべきは現代のPick Up Artistはマッチングアプリを主戦場にしているということだった。SNSはもちろん、マッチングアプリ活用専門のYouTubeアカウントやTikTokアカウントもたくさんあるし、著名なPUAは一種のインフルエンサー化しており、影響力の強いアカウントは数千~数万単位のフォロワー数も珍しくない。その人気と知名度から、大手出版社から書籍を出しているPUAもいる。

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それらPUA達はより素敵な異性と出会うための有益なノウハウなども発信しつつ、リアルタイムな情報拡散が特性であるTwitter上においては、どれだけ女の子を落とせたのか、出会ったその日に男女関係に持ち込めたのか──これを「即」という隠語で表現する(!)──などを報告しては、フォロワー達からの喝采を浴びる、そんなコミュニティが見られるようになっている。

道徳的にどうなのかという問い返しは重要だが、私たちの社会が付き合わない状態のセックスを規範的に禁止していることによって、一部の人のみしか手を出さなくなっている──そのようなある種の文化的ハッキングが起こっているようにも思われる。いわば、禁酒法時代にむしろ密売人だけがおいしい思いをしていたのと同様に。

最近ではPUAインフルエンサーがそのようにしてSNSで知名度を上げつつ、自らのノウハウをnoteで発信するようになっている。noteはMAUが6300万人を突破したという発表が先日なされた通り、いまや国民的なクリエイターの発信プラットフォームになっていて、ブログのように文章を書く人も、写真や動画、音声配信をする人もさまざまだ。

noteは広告が入らないという意味でのUIの洗練性、書き手&読者ファーストな思想を貫徹したプロダクトになっている。これまでの多くのブログサービスが則っていた無料&広告モデルを採らないことで、課金プラットフォームとして成長し、クリエイターが発信するためのインセンティブを生んでいる。

もちろん恋愛指南本のようなものは、いつの時代も書店などでベストセラーになって平積みされているもので、ノウハウをお金にするのは珍しいことではない。むしろPUAインフルエンサー達のnoteの特異性は、そこでの課金の仕組みにある。すなわち、noteが売れれば売れるほど値上げするのだ。

一般的には、情報は時間が経つほどその価値が落ちていくが、ここでは上がっていくという逆転現象が起こっている。もちろん、加筆などがなされることもあるけども、そこに値上げに見合うだけの価値の上昇が伴っているのかというのは大きな留保が伴わざるを得ない。しかしながら読み手としては「値上げされないうちに早く買わなければ」というインセンティブが働くのだ。

昨今ではさまざまなサービスに向けた「ダイナミックプライシング」の考え方が注目されているが、良く言えばこれは情報にその考え方をあてはめた事例と言えるかもしれない。
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文=天野 彬

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