猫と人間の関係性──私たちはなぜコロナ禍で彼らを求めてしまうのだろう?

この機会に、人間にとって猫とは何かを考えてみたい(Unsplash)


ペットとの関係性から得られる利益


元々はネズミを退治してくれる「使役動物」だった猫だが、時代とともにどんどん人間に近い存在になり、現在は「愛玩動物」(つまりペット)となって世界中で愛されている。今回の新型コロナは、この関係性をさらに変化させるのだろうか。

「人とコンパニオンアニマルの関係」をテーマに研究する帝京科学大学生命環境学部准教授の濱野佐代子さんは、人間とペットの関係性の歴史的変遷を基に、新型コロナ禍のペットの役割を分析する。

「犬や猫は、使役動物からペットに変わる過程で、実用的な利益から『関係性から得られる利益』に変わってきたとよく言われています。つまり、直接猫が何かをしてくれるわけじゃないけれども、その関係から人間が恩恵を受けるようになったということです」

濱野さんによると、この「関係性から得られる利益」は、大きく3つに分けられる。1つは、楽しい気持ちになったり孤独感が軽減されたりする「心理的利益」、次に対人関係を円滑にする潤滑剤になる「社会的利益」、そして心身の健康に良い影響を与える「身体的利益」だ。

このうち、特に2つ目の「社会的利益」の効果が、新型コロナ禍において大きいと濱野さんは見ている。

「ペットの役割の一つとして、『人と人との間を繋ぐ』というものがあります。特にコロナ禍においては、「家族の仲をつなぐ役割」というのが非常に有効になっているのではないかと思います。実際飼い主の方に話を聞いてみると、在宅勤務になって閉鎖された空間で過ごすことになり、夫婦でケンカが増えたけれど、ペットと交流することでストレスが軽減されて救われたという声がありました。こうした、人間関係や争いごとを緩衝してくれる役割が効いているのではないでしょうか」

保護猫の引き取りが増加、ペット店の売上も好調


保護猫
保護猫と触れ合える日本のペットカフェも (GettyImages)

新型コロナを機に猫を飼おうとする人々の心理についても、考えてみたい。

先に述べたように、米ブルームバーグの報道によると、ニューヨークのあるシェルターでは引き取り依頼が急増し、保護猫がほぼいなくなった。また日本でも同様の変化が起きており、西日本新聞によると、熊本県や大分県などで4月の犬猫の譲渡数が昨年同月比で増加しているという。

また全国にペットショップを展開するアレンザホールディングス(福島市)の売上推移速報によると、既存店売上高は2020年2月から4カ月連続で前年同月比を上回っており、5月は前年比で18%増加した。

人はなぜ、こうした社会情勢の中で猫を求めるのだろうか。

嬉野さんによると、ペットの里親募集サイトでは、台風や大雪などで人々が在宅せざるを得ない日にはPV数が上がるのだという。コロナ禍でも同様に「結局、新たな趣味に手を出すのと同じように、時間ができたので猫の飼育を始めてみるという人が増えているんだと思います」と分析する。

松原さんは「ずっと飼おうと思っていた人たちにとっては、飼い始めるいいタイミングなんだと思います。猫って、最初飼い慣らすまでの1カ月くらいは、家を空けるのが不安じゃないですか。そういう意味では、在宅の時間が増えたことがきっかけになっているのかなと思います」と指摘。この「飼いならす期間が確保できる」というメリットは、今回取材した別の猫の専門家たちも口にしていた。それでは、猫と人間がより幸せに暮らすには、どんな工夫が必要だろうか。7月12日21時に公開される後編へ続く。

文=鷲見洋之

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