狙いは世界3%の富裕層 いま日本に「ハイエンドトラベル」が必要な理由


このようなハイエンドトラベラーは、世界経済に大きな影響を与えている地位の高い成功者たち。投資家、ビジネスオーナーなどのビリオネアで、セミリタイアまたはリタイアした人も含めて高学歴で、1回の旅行で数千万円を消費する超富裕層です。

彼らは世界最先端の、あるいは唯一の、他では見られないモノやコトを見て、インスピレーションを得る「自分への投資」として、世界を旅しています。ある南米のレディは日本に滞在中、毎日哲学者や歴史家、詩人などの日本の今の知識層をランチに招き、日本の歴史や習慣やらを直接聞いて学んでいました。また、ハイエンドトラベラーには現代アートのコレクターも多く、自身の美術館を所有する人もいます。


実業家夫妻のプライベート・コレクションが公開されているロサンゼルスの美術館「ザ・ブロード」

ハイエンドトラベルがイノベーションを起こす契機に


このようなハイエンドトラベラーを日本に誘致すべきだと考える大きな理由が2つあります。

一つは、彼らを受け入れるための環境を整備することによってイノベーションが起きる可能性です。

世界にインパクトを与えるビジネスを立ち上げてきた成功者の多くは天才で努力家、洞察力や創造力に優れ、高い感覚的知性を持っている人たちです。このようなハイエンドトラベラーを受け入れるということは、様々な産業にとって普通には出会えない、違うものの見方をしている人に触れながら知見をいただける絶好の学びの機会ととらえることができます。


ゴージャスなスーパーヨットの中ではビジネスの商談も行われる。

例えばイーロン・マスクを迎えるとしましょう。電気自動車の世界にイノベーションを起こし、火星への移住を描いている彼が、多忙な中で日本を訪れるからには、それなりの目的があるはずです。日本の何になぜ興味を持ち、そこから何を持ち帰りたいと思っているのか? どのような人に会い、何を見て、何を食べたいと思っているのか? どこに泊まって、移動や警備はどうするのか? 一点ものの工芸品やアート、デザイン、ファッションなど、どのようなものを気に入り、持ち帰りたいのか?

これらの期待に応えるためには、実際の受け入れに向けて警備、交通、宿泊、アート・ファッション・食などの文化、イノベーションや研究分野を見渡して、「彼の目線で」体験や導線をデザインする必要があります。

その時に重要なのが「目線」。なんとなく伝統工芸が外国人に受けるだろう、などという次元でなく、彼の考えや好みを調べ、それに合わせてカスタマイズした「テイラーメイド」の時間を「キュレート」していくのです。この過程で現状のサービスの至らない点、必要な改善点が炙り出されてくるでしょう。

さらにコンテンツを磨くために、アーティストやコミュニケーションに長けたクリエイティブ層の人材を上手く活用し、今までと違う柔軟な発想で彼を満足させ、驚かす旅を創り出します。それにより新たなコンテンツや雇用が生み出され、サービスや商品が開発されるなどのイノベーションが起きるでしょう。彼に対峙するホスピタリティーなどの若者たちが影響を受けるかもしれませんし、滞在中に子供たちと交流するような時間が作れれば、その中から触発されて、未来の起業家が生まれるかもしれません。

このように、ハイエンドトラベラーの誘致は、クリエイティブな発想や企画力で産業全体を磨き、底上げする可能性を秘めたチャンスなのです。
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文=山田理絵

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