歴史から考察する新型コロナウイルス後の世界


転じて今回の新型コロナはどうだろうか。経済に大きな悪影響が出ることは避けられない。中国はもちろん、グローバル化した世界経済への連鎖反応は大きく、経済力の弱い国々の財政悪化も深刻だろう。それでも、14世紀のペスト禍以降のような、人類社会全体の構造を変えるには至らないと思う。

しかし、一つだけ激変の可能性があるとしたら、アジアが過去の歴史記憶を呼び覚まされ、欧米への目線が変わることではないか。20世紀前半の大東亜共栄圏は侵略主義の代名詞、21世紀の一帯一路は覇権主義と見られている。どちらも冷静に振り返れば、欧米優先史観の色がついている。19世紀も、20世紀も、アジアは欧米の巧妙な誘導によって、本来の味方同士が敵として対峙してしまったのではないか。

1842年、屈辱的なアヘン戦争で、中国は治外法権を含む不平等条約を強要され、中国側の検疫権は無力となった。1879年の日本のコレラ予防規則も、欧米との不平等条約の下で発出された。欧米の公使も領事もそんな規則は無視した。その結果、日本国内で10万人を超すコレラの死者を出した。

現下のコロナ騒ぎで、欧米にはアジア人への差別的言動が蔓延した。欧米人の根底にある、「遅れているアジア」像が姿を現したのか。感染源となったクルーズ船は、日本の人権重視の対応がかえって非難され、船籍国の英国は知らぬ顔の半兵衛だ。

他方で中国は日本からの支援に強く励まされ、対日感情に明らかな好転がみられる。3月になると、今度は、ジャック・マー氏が日本に100万枚のマスクを寄贈するなど、加油日本!のムードだ。

日本と中国が、コロナ災厄を機に、欧米優先史観からアジア優先史観に舵を切ったとしたら? 西欧的グローバリズムが、まったく異なる「全球化」に変質していく可能性がある。 

死語となった脱欧入亜がコロナウイルスで復活するのであろうか。


川村雄介◎1953年、神奈川県生まれ。大和証券入社、2000年に長崎大学経済学部教授に。現在は大和総研特別理事、日本証券業協会特別顧問。また、南開大学客員教授、嵯峨美術大学客員教授、海外需要開拓支援機構の社外取締役などを兼務。

文=川村雄介

この記事は 「Forbes JAPAN 5月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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