シネマの女は最後に微笑む

右からシャーリーズ・セロン、パティ・ジェンキンス監督、ニナ・リッチ。Amy Graves / Getty Images

ドイツの首都ベルリンで3日、数十人のセックスワーカーたちが、新型コロナウイルスの感染拡大を抑える規制によって生計が立てられないとして、連邦参議院の建物前で抗議活動を繰り広げた。

ドイツでは売春が合法とされており、州政府に届け出を行えば雇用契約や社会保障の資格が与えられる。しかし実際は個人情報が犯罪捜査などに利用されることを恐れて、届け出を行っている人は全体の1割ほどであり、その中でも超貧困層はコロナ感染と罰金のリスクを冒して営業を続けているという。

日本では、新型コロナによる一斉休校の影響で休職した保護者への支援制度において、風俗関係者が一時対象から外された。こうした差別的扱いが大きな批判を呼び、4月の初めに政府が制度の見直しを余儀なくされたのはまだ記憶に新しい。

さまざまな制度の網の目から抜け落ちてしまいがちなセックスワーカーの生活が、貧困や犯罪と隣り合わせであることが、いま改めて浮き彫りになっている。

映画『モンスター』(パティ・ジェンキンス監督、2003)は、1989年から90年にかけてフロリダ州で起こった、アイリーン・ウォーノスによる連続殺人事件とその背景を、一人のセックスワーカーと若いレズビアンの関係を通して描いた作品だ。アイリーンの生育環境や犯罪歴、同性との短い恋愛、連続殺人、逮捕から裁判で死刑判決が下るまでを、かなり事実に忠実に描いている。

観客に共感させる視点


この作品で33歳当時のアイリーンを演じたシャーリーズ・セロンは、だぶついて緩みきった体型に肉体改造し、眉を抜き、フリーの売春婦として荒んだ生活をしてきた当人になり切った演技で、アカデミー主演女優賞他の女優賞を獲得した。

重大な犯罪を犯すことになる女が主人公の場合、彼女の恵まれない過去や貧しく悲惨な現在、殺人行為に至ったやむにやまれぬ事情、そしてそうした犯罪を生む社会的要因などが必ず描かれる。それがなければ、見る者は欠片も主人公に共感できない。去年ヒットした『ジョーカー』も、そのような観点からの評価の声が多く聞かれた。

事実を元にしている『モンスター』でも、「あまりにも酷い目に遭ってきたために、ここまで男性不信になってしまったのだ。彼女をそういう境遇に追いやった社会が悪い」という見方は当然あるだろう。

だが、そうした社会的観点にも増して改めて注目したいのは、アイリーンが偶然出会って恋に落ちるセルビーとの、短い愛情関係である。ここに描かれているのは、あまりに無垢で無残な「愛と承認の物語」だ。

文=大野 左紀子

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