FBIのトレーニングアカデミーは、バージニア州のクアンティッコ市にある。7万坪もの敷地内に訓練施設や教育施設、ラボラトリーなどがあるが、有名なのはこの一角に「ホーガン横丁」という架空の街がつくられていることだ。そこには床屋や郵便局や映画館や銀行、コインランドリーなどがあり、ハリボテではなく、実際の建物が立っている。
ウェブサイトによると、ここでは毎週2回程度、銀行強盗や銃撃事件などの模擬犯罪が行われ、新人研修を受けているFBIエージェントたちが、強盗の制圧や暴動鎮圧のために拳銃やショットガンを持って、駆けつける。
このホーガン横丁には、営業していない銀行や郵便局や薬屋に混じって、本物のサンドイッチショップ「サブウェイ」がある。おそらく全米でも、午後3時に閉店してしまうサブウェイはここだけだと思うが、毎週、銃撃戦の起こるこの街に本物のサンドイッチショップがあるのは、いかにもアメリカらしい。
ちなみに、この店へ直接電話して聞いてみたが、店も含めたこの一角ではビジターも大歓迎だということだった。ただ、模擬犯罪が行われているときは、エージェントの指示に従ってくれということだ。
このまるで本物のような街を使ったトレーニングというのは、ユニバーサルスタジオのような、ハリウッドのスタジオ文化から来ているということだが、本物志向はいつの世界も訓練を効果的にする。ちなみにホーガン横丁は、120年前の新聞漫画からその名前を取っている。
充実したトレーニングで鍛えられたFBIエージェントたちは、そのまま定年までFBIにいることは少ない。独立監査局による監査レポートによれば、5年後もFBIにとどまろうと考えている人は全体の半数を切っているという。
どこかの時点で民間に出て、セキュリティーコンサルタントになったり、人が集まるカジノやホテル、球場などの運営会社の警備担当役員に転出したりするなど、犯罪が複雑化し、見えないテロと戦うアメリカにおいて、ますます民間の警備需要が増えているから、報酬もとても高額になる。
筆者の友人に、FBIのサイバー部署のトレーニングを担当していたプロのハッカーがいるが(FBIのサーバーをハックしてみせ、欠陥を指摘する)、今回、好待遇でフェイスブックに引き抜かれて行った。
3%から5%といわれる合格率の超狭き門に向けて、これほど市民生活に直接なじみのないFBIが人気を保つのもまた社会現象ではあろう。
連載:ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信
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