そして、その敏しょう性は実際に、利益につながっている。今年第1四半期(2〜5月)の決算では、グループ全体の売上高は前年比45%増を記録。新型コロナウイルスの感染拡大により、ロックダウン(都市封鎖)が実施されていた時期であることを考えれば、特に注目に値することだ。
だが、一方でブーフーは、購入する衣類がどこで、どのように製造されているかそれほど気にもしていない顧客たちに依存している──正直に認めよう。買った服がどこで作られたのか、ラベルを見てチェックする人や、買う前にその服を作った人たちの作業環境がどのようなものか、確認する人がどれだけいるだろうか。
英紙サンデー・タイムズは先ごろ、潜入取材を行った記者の記事を掲載。ブーフーの姉妹ブランド「ナスティ・ギャル(Nasty Gal)」から生産を請け負っている工場では、従業員の時給は3.50ポンド(約470円)だと報じた(英国の25歳以上の労働者の法定最低賃金は、時給8.72ポンド)。
さらに、新型コロナウイルスの感染が再び拡大し、6月29日にロックダウンが実施された中部レスター市にあるナスティ・ギャルの工場は、同日以降も稼働していたとされている(同市の感染拡大の原因は、縫製工場の作業環境ではないかとみられている)。同市の縫製工場が手掛ける衣類の75〜80%の納入先は、ブーフーだ。
奴隷労働の事実はあるのか
こうしたことを受け、プリティ・パテル内相は英国家犯罪対策庁(NCA)に対し、レスターの縫製工場で働く労働者が“現代の奴隷”に該当するかどうか、調査を開始するよう指示した。
実際にそのような状況にあれば、「本当に恐ろしいこと」であり、「罪のない人々に奴隷労働と搾取される生活を強要する病んだ犯罪者たちを、許すことはできない」と述べている。
ブーフーの別の子会社、「Pretty Little Thing(プリティ・リトル・シング)」についても、従業員の賃金と作業環境、それらと感染拡大との関連について調査が行われる。
ナスティ・ギャルは声明を発表。自ら調査を行い、「どのサプライヤーに対しても、最低賃金を下回ることは認めない」との考えを明らかにしている。
一方、ブーフーはこれらの問題以外にも、時価総額(現在はおよそ49億ドル)が60億ポンドを超えれば、経営陣の報酬パッケージを総額1億5000万ポンドにすると決めたことについて、投資家たちから批判を受けている。
消費者の意識も問題
ブーフーと子会社についてこうした問題が指摘されるなかで、10代の若者たちに、「ナスティ・ギャルのジャンプスーツも、プリティ・リトル・シングがビアガーデンでのパーティーにお勧めとしている服も、もう買うことはできない」と伝えたら、どうなるだろうか?
悲しい現実だが、表向きはこれら各社に対する怒りを示しながらも、実際にはほとんど、何も変わることはないだろう。
英小売大手マークス&スペンサーの時価総額は、“わずか”19億ポンド程度。ブーフーはその2倍以上だ。だが、10年後に生き残っている企業はどちらになりそうか、考えてみてほしい。選ばれるのは、どちらだろうか。