新型コロナウイルスは人々の健康や命だけでなく、世界中の経済・社会に深刻な打撃を与えたが、同時にさまざまな点において過去にない規模の変化を促した。
「新型コロナウイルス感染拡大で世界が直面する新たな局面は、私たちのこれまでの生き方、働き方、お客様や社会とのつながり方、家族とのつながり方など、いままで『当たり前』であったものすべてを根本から見直すことを迫るものです」
セールスフォース・ドットコム代表取締役会長兼CEOの小出伸一は、同年4月に同社ウェブサイトにてメッセージを発信し、「経営者としてこの新局面において企業ができることは何か、一個人としてできることは何かを考えたい」と語った。
ポストコロナ社会における企業の役割とは何か。同社の取り組みとその先の未来について、小出に語ってもらった。
私たちにできることは何か
まず、新型コロナウイルス感染症に罹患された皆さま、関係者、『Forbes JAPAN』読者に謹んでお見舞い申し上げます。
世界の誰もが経験したことがない未知の状況下、私たちはこの局面を、すべてのステークホルダーとともに、どう乗り越えるかを考えています。私たちは、創業当時から「Business is the Greatest Platform for Change.(ビジネスは変革のための最良のプラットフォームである)」という信念をもち続けており、企業活動とは「利益を追い求める」だけではなく、同時に「社会をよくする」ものでなければならないと考えています。その考え方の下、私たちの行動やステークホルダーとの関わりにおいて指針となるのが、4つのコアバリュー──「信頼」「お客様の成功」「イノベーション」「平等」です。
この4つのバリューは、世界中のセールスフォース・ドットコムの従業員が、日々の活動において立ち返る基本原則であり、これらのバリューに基づく行動は当社の成長を支える企業文化と呼べるものです。このバリューに基づき、私たちはコロナ禍において「従業員の健康と安全」、「お客様、パートナー様への支援」、「社会への貢献」に重点をおいています。
例えば、世界に多大な影響を及ぼしている新型コロナ感染拡大のなか、市民の健康と安全を守るため懸命の努力を続ける各行政機関に対して私たちがお手伝いすべきはどこであるかを考え、千葉県船橋市や千葉市の保健所向けに、感染拡大に伴う相談内容や受け入れ病院照会などの情報を、リアルタイムで記録し迅速な情報共有を実現するクラウド型業務支援パッケージを無償で提供しました。
緊急事態宣言が発令される前に、一時的に全国のオフィス閉鎖も実施しました。感染を少しでも防ぐため、企業としての社会的責任を果たし、従業員やお客様の健康と安全を守るための決断でした。
それ以外にも2月末の突然の全国一斉臨時休校を受けて、私たちに何かできることはないか議論を重ね、以前から連携していたNPOへの助成を決定しました。これらの数々の施策は、「私たちにできること」をひとつずつ実行に移してきた足跡でもあるのです。
デジタルシフトとマインドシフトへ
その後、緊急事態宣言は解かれ、私たちは「新しい日常」へと歩を進めています。新しい生活様式において、従業員、顧客、パートナー企業、地域社会とのつながりをどう再構築するべきなのでしょうか。
まず、新しい日常は、特にステークホルダーとのつながりにおいて大きなシフトを迫っています。ひとつは「デジタルシフト」です。購買行動(デジタルコマース)、教育現場(オンライン授業)、医療現場(オンライン診療)、職場(オンライン会議、テレワーク)などのデジタルシフトは、いままで「当たり前」だった対面形式のつながり方を、いや応なしにデジタルへと変えています。業種業界や企業の大小を問わず、速やかに「デジタルシフト」に対応する必要があるということです。
ふたつめは「マインドシフト」です。デジタルシフトの拡大は、サービス提供者と受益者のつながり方に大きな変化をもたらします。顧客体験に対する期待はより高くなり、スピードや質への期待はさらにシビアになる。企業には、よりいっそうの誠実さや正確さが要求されるようになるでしょう。サービス提供者は先回りして顧客体験に「変化を起こすこと」が求められ、消費者のニーズを自らがつくり出すマインドシフトが必須になるはずです。
実は、もうひとつ大事なマインドシフトがあります。企業活動を中心とした私たちの活動は、株主のためだけではなく、私たちが関わる社会や環境も含めたすべてのステークホルダーを重視するものでなければなりません。むしろ、ステークホルダーの持続可能な成長こそ企業のミッションとなるべきだと考えています。私たちがサステナビリティやSDGsを重視するのは、持続可能な社会が企業活動を再始動し成長させるために不可欠と考えているからです。
セールスフォース・ドットコムが支援する「デジタルトランスフォーメーション(DX)」とは、単なるデジタル技術活用やソリューション導入ではなく、データ志向の、顧客を中心とするビジネスへの進化であり、企業文化や組織風土の変革をも含めた「トランスフォーメーション」なのです。私たちは自ら「トレイルブレイザー(先駆者)」として、持続可能性のあるデジタル変革「サステナブルDX(SDX)」を追求するとともに、すべてのステークホルダーとともに、ポストコロナ社会の明るくサステナブルな未来をつくっていきたいと考えています。
『トレイルブレイザー』は、セールスフォース・ドットコムの創業者で会長 兼 最高経営責任者のマーク・ベニオフの新著のタイトル(7月末に東洋経済新報社より刊行)でもあります。企業が社会をよりよく変えていくために必要な思考について多くの皆さまと共有できることをたいへん光栄に思います。
小出伸一◎1958年、福島県生まれ。大学卒業後、日本IBMに入社。2006年に日本テレコムに入社し、ソフトバンクテレコム副社長兼COOに就任。07年日本ヒューレットパッカード 代表取締役社長を経て、14年セールスフォース・ドットコム代表取締役会長兼CEOに就任。
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