音楽は宇宙の調和を語る言葉

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逆に数学的・理論的な見地を、作曲に応用しようとする動きもあり、いろいろな数列と音を組み合わせて作曲をする試みがあり、モーツァルトもサイコロを振って出た目から展開する楽曲を作ったことがある。現代音楽ではライヒやクセナキスが、偶然や確率、アルゴリズムを駆使した楽曲を作ったことが有名だ。

現在のテクノロジーが支配する世界では、メディアアートの分野で、コンピューターが作ったCGを操作すると音がでるビジュアル楽器のような作品がよく作られるが、それらが大々的に話題になることはない。


ブライアン・イーノ(Photo by Valeriano Di Domenico/Getty Images for Kaspersky)

NASAはときどき、宇宙からやってくる電波の振動を音に変換したデータを公開しており、ブライアン・イーノは天体物理学者と組んで星の内部で発生した音で宇宙オーケストラを作ろうとしているというが、それらは天文学者の啓蒙運動の一環のようにしか思えない。
古代から人類を魅了してきた、世界や宇宙を理解する手がかりとしての音楽という視点は、いまでは忘れ去られているようにも感じる。

音楽は宇宙を語る言葉


30年前に初めてVR機器を発売したVPL社は、もともと画面に並べたアイコンを組み合わせてプログラムや音楽を生成するソフトを作っている会社で、エアーギターのパフォーマンスで実際に音を連動して出すための手に着けるセンサーを開発してからVRの世界に本格的に参入した。


ジャロン・ラニアー(Photo by Mike Coppola/Getty Images for Tribeca Film Festival)

この会社の創業者で、まさにVR(Virtual Reality)という言葉を作ったジャロン・ラニアーは、民族楽器のコレクターかつ演奏家でもあるが、最近のVRブームを受けて行われたWIREDのインタビューでVRの定義を尋ねられて、「音楽と知覚の中間に位置するもの」と答えている。
VRの世界ではゲームをプレーしたり、想像上の世界を旅したり、理論上のモデルを操作したりと、われわれの認識する世界のイメージと言葉というより身体を使って対話する。ラニアーはそれを「ポスト・シンボリック・コミュニケーション」とも表現するが、古代に考えられた音楽は、こうした世界の秩序や調和を操作したり理解したりすることを、感覚的に捉えたもっと広い概念だった。そういう意味ではラニアーの言うVRの定義は示唆に富む。

音楽好きだったAIのパイオニアのマービン・ミンスキーは、コンピューターに出合ったのは、自動ピアノで遊んだとき、シートに穴を開けるだけですばらしい音楽が生まれる不思議に感動した記憶を、プログラミングに重ねたからだと言っていた。

インターネットでは当初、旧来のマスメディアがニュースサイトを作り同じ声が一方的に広く流れたが、現在では誰もがSNSの発信者となり、ツイッターの「つぶやき」やユーチューバーのパフォーマンスが、声のニュースのように世界中に響いている。それは書かれたニュースのコピーが流布していると言うより、地球全体が一つの空間となり、世界中の人々の現場の声や音が同時に鳴り響いている交響曲が流れているような状況だ。

われわれは現在、音楽を有名アーチストが作っている流行のようにしか捉えていないが、日々の暮らしに関係する話し言葉や雑音を含めた、世界の音全体が構成する広い意味での音の世界を扱うものだと考えてみると、もっと違うメロディーが聞こえてくるのではないだろうか?

連載:人々はテレビを必要としないだろう
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文=服部 桂

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