音楽は宇宙の調和を語る言葉

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ラジオ放送はもともと、20世紀初頭に無線電話として1対1で使われていた無線の機能を、マルコーニ電信会社のデビッド・サーノフが単独の発信者の声を不特定多数に広く撒く「ブロードキャスト」(放送)という方式に変更して普及させたもので、第一次世界大戦が終わった1920年代にはアメリカで商業放送が開始された。ラジオが伝えるのはニュースばかりでなく、最初からドラマや音楽などのエンターテインメント番組も流された。


1920年代のニューヨークの動物園のホッキョクグマの檻の前で演奏する「オリジナル・ディキシーランド・ジャズ・バンド」(Photo by Mondadori via Getty Images)

ラジオに大きく反応したのは若者世代で、この時代が「ジャズ・エイジ」と呼ばれるほどジャズの人気が高まった。ちょうど出始めたレコードと電気式蓄音器でブームがやってきた。テレビ時代を開花させたのも、若者が支持したロックを扱った歌番組やMTVのようなミュージックビデオだったが、ネット時代を牽引するのはミニマルやR&Bやヒップホップなのだろうか。

歌は人類の記憶を伝える


同じ音でも、音楽は音声と違って明確なメッセージを感じ取ることが難しく、現在ではもっぱらエンターテインメントとして捉えられることが多い。

音楽の起源は定かではないが、原始時代から石器をたたいたり、動物の骨を吹いたりして音を出す習慣があったと考えられ、古代のメソポタミアやエジプトの遺跡では楽器も発見されている。そして話し言葉に節をつけた歌も古くからあったと考えられる。

話し言葉の音の高さに一定のメロディーやリズムを付けた歌は、労働時や祭礼の際に使われただろうが、それは言葉の記憶と伝承に有効だった。長い文章を記憶するときには、一定の長さに切って、韻を踏むように音の類似性を利用し、節回しを付けるとどういうわけか自然と覚えられる。好きなアーチストの歌の歌詞は特段覚えようと努力しなくても、何回も聴いているうちにメロディーが流れると無意識に出て来るようになる。

明治時代に作られた鉄道唱歌は、全国の鉄道の駅名を読み込んだ300番以上の唱歌で、これによって駅名を暗記できるようになった。そのほか都市名や歴代天皇の名前を読み込んだものも古くからあった。アメリカでも全州の名前や歴代大統領の名前を覚えるための歌があり、歌を使った記憶術は世界的に使われてきたものだと言える。

ホメロスやイリアッドのような古代ギリシア時代の長編の物語も、吟遊詩人の記憶によって後世に伝えられたとされるが、きっと人類が最も古くから伝えようとした言葉は、石碑などに刻まれたものより、民謡などにその命を託しているようにも思える。


エジソンと蓄音機 1928年(Photo by Keystone-France/Gamma-Rapho via Getty Images)

しかし音楽は現在、プロのミュージシャンと呼ばれる人が、いろいろなレーベルからCDやデジタルでリスナーに配信しているのが普通だ。19世紀末にエジソンの蓄音器ができて、その後グラモフォンなどのレコード盤に録音した音楽がマス商品化し、演奏する人と聴く人が分離した。昔からプロのミュージシャンはいたが、音楽はもっと家庭や地域で誰もが参加して楽しむものだった。初等教育の時期から情操教育の一環として、音楽の授業で楽器を演奏したり歌ったりすることはあっても、「読み書きソロバン」が中心の教科の中で、音楽や体育は余技のような扱いでしかない。

富国強兵のための義務教育から始まったカリキュラムは、きちんとマニュアルを読んで間違いなく仕事をこなす官僚や工場労働者を育てるには向いているが、個性的な表現を育てるには不十分で、受験に関係ない音楽をずっと続ける人は音楽大学に行ってプロを目指す特殊な人という扱いだ。
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文=服部 桂

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