ハードディスク・レコーダーとネットフリックスの普及により、消費者はテレビCMを毛嫌いするようになったと言われる。ハードディスク・レコーダーにCMスキップ機能を初めて組み込んだ開発者の1人であり、ネットフリックスの創業者、リード・ヘイスティングスの直属の部下として働いた経験もあるアンソニー・ウッドは、それを十分承知しているはずだ。だが、ストリーミング・メディア革命が進むいま、ウッドはストリーミング・デバイス・メーカー、Roku(ロク)の未来をそのテレビCMに賭けようとしている。
これは必然とも言える。ロクはネットフリックスやディズニーなど、5万本に上る映画やテレビ番組をインターネット経由で視聴できる低価格のドングルを販売している。だが、このビジネスは利益率が低く、いままで一度も黒字になったことがない。さらに悪いことに、ストリーミング自体がコモディティ化してしまい、いまではプレイステーションやタブレット、スマートTVなど、ネットにアクセス可能なあらゆる機器にストリーミング・アプリが組み込まれている。
だが、現在54歳のウッドは、ロクがハードウェアの枠を超え、ストリーミング用アプリ上で広告のリーチと効果を測定する、利益率の高いソフトウェア・ビジネスを展開できると考えている。
「これまで、テレビCMの効果を測定しようとすると、CMを見た大まかな人数を把握することができるニールセン視聴率を利用する以外に方法がありませんでした。しかし、我が社の効果測定はきわめて正確であり、スポンサー企業に対して『広告を見た人の中で貴社のサイトを訪問し、何らかの商品を購入した人の割合は5%です』とレポートすることもできます」と胸を張る。
「私たちはインターネットのテクノロジーをテレビの世界に持ち込もうとしているのです」。ロクは自社の測定ツールを活用するだけでなく、ニューヨークを本拠とするニールセンなど11社のパートナー企業とも提携し、サービスを提供している。この新たな展開は実を結びつつある。同社の広告ビジネスは急成長し、投資家もこれを好感している。ロクは2019年10月、顧客企業によるビデオ広告キャンペーンの企画と展開を支援するボストンのIT企業データシュー(Dataxu)を1.5億ドルで買収した。
「ストリーミング戦争と言われますが、ディズニーなどの巨大企業が一斉にストリーミングに参入しようとしていることにワクワクしています。我が社にとって、これは絶対的な好材料です」
アンソニー・ウッド◎初期のハードディスク・レコーダー「Replay TV」の創業者であり、ネットフリックスの元幹部。2002年にロクを創業。社名は日本語の6を意味し、彼が6番目に創業した企業であることにちなんでこの社名にしたという。