NY愛に溢れたウディ・アレンの新作が米国で上映されない理由 「レイニー・デイ・イン・ニューヨーク」 

『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』 (C) 2019 Gravier Productions, Inc.(配給:ロングライド)

ウディ・アレンのニューヨークを舞台にした作品は、彼の「私小説」の色合いが強い。ロサンゼルスの音楽関係者に恋人を奪われる主人公を描いた「アニー・ホール」(1977年)は、そのままハリウッドへの決別宣言とも取れるし、「マンハッタン」(1979年)では、テレビ界に愛想が尽きた放送作家の、年齢差ある女子高校生との恋愛模様を描いている。

実際に、アレンは、「アニー・ホール」でアカデミー賞の監督賞と作品賞と脚本賞を受賞したにもかかわらず、授賞式には出席せず、その後もハリウッドとは距離を置いている。また、若い恋人との恋愛は、彼の人生のなかで大きな波紋も残している。

しばらく前まで、「それでも恋するバルセロナ」(2008年)や「ミッドナイト・イン・パリ」(2011年)、「ローマでアモーレ」(2012年)など、立て続けにヨーロッパの観光都市を舞台にした作品を撮っていたアレン監督だが、このところ、また作品の舞台を、彼の本拠地であるニューヨークに移している。

「カフェ・ソサエティ」(2016年)では、物語の前半は1930年代のハリウッドで進行するが、後半はニューヨークのセレブが集う高級クラブが舞台となっている。また「女と男の観覧車」(2017年)は、「アニー・ホール」でも描かれた1950年代のブルックリンのコニー・アイランドでの物語だ。そして、その「故郷帰り」の決定版とも言える作品が、最新作「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」だ。

さながらNYを観光している気分


「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」は、実に観客へのサービスに充ちた作品だ。「ピエール」や「カーライル」、「プラザ・アテネ」など、マンハッタンのアッパー・イーストサイドの高級ホテルが軒並み登場するし、メトロポリタン美術館やセントラル・パーク、グリニッジ・ヴィレッジも舞台となる。さながらニューヨークを観光しているような気分にもなる作品だ。

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Photography by Jessica Miglio(C)2019 Gravier Productions, Inc.

物語は、ペンシルべニアの小さな大学に通う主人公ギャツビー(ティモシー・シャラメ)とガールフレンドのアシュレー(エル・ファニング)が、週末をニューヨークで過ごすことになるところから始まる。

ギャツビーの実家は、マンハッタンの高級住宅がひしめくアッパー・イーストサイドにあり、彼はこの街を知り尽くしていると言ってもいい。一方、アシュレーは、アリゾナから出てきた銀行家の娘で、ニューヨークは幼い頃に訪れたきりだ。

そこで、ギャツビーは得意のポーカーで稼いだお金で、アシュレーとの週末旅行を楽しもうとマンハッタンの高級ホテルであるピエールのセントラルパークを見下ろす部屋を予約する。食事をするレストランにも席を取り、馴染みのカーライル・ホテルのベメルマンズ・バーにも案内しようとする。
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文=稲垣伸寿

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