止まっている時計は、日に2度合う──秋元康流 「流れ」のつかみかた

Photo/Kyodo News/Getty Images


自分の幸せを定義しておく


多くの人がやろうとするのは、逆ではないでしょうか。みんなが行こうとするところ、みんなが進むところに行こうとする。それを逆転発想するのは、秋元さんが組織に属さずに、仕事をしてきたことも大きいのかもしれません。

「僕は自由業ですし、小さな一個人ですから、みんなと同じことをしていたら負けてしまいます。みんなが集まっている野原には、野イチゴはない。だから、野イチゴがたくさんありそうな未開の場所を探すんです。

流行にかかわる仕事をしてきて思うのは、いま流行っているものは、1年前に植えられていたということです。例えば、いまヒマワリが高値で取引されているとして、ヒマワリをいまから植えても、みんなと同じです。待っているのは暴落しかない。必要なのは、いまタンポポを植える勇気なんです」

この勇気こそ、混沌とした未来の見えない危機の時代に必要なのではないでしょうか。もとより未来が見えていた時代など、本当は過去に一度もなかったのです。余計なことを考えるべきではない。自分が進むべき道は、自分で決めればいいのです。秋元さんは、こうも言っています。

「大事なのは、自分にとって何が幸せなのか、どうすればドキドキできるのかを、しっかり理解しておくことです。本当に何が好きなのか考えてみる。誰かの意見に流されたり、お金に縛られたりして、判断が間違っていないか自問自答してみる。

そうやって、自分の幸せをしっかり定義しておく。それができていないと、常に何かを求め、何にでも手を出し、結局何も手に入らないことになりかねません」

重要なのは、自分なりの価値観をはっきりさせることです。自分はこれがやりたいんだということを自分で考え、それを貫く。秋元さんがそうだったように。出世して社長になったり、創業者利益で莫大な資産が手に入ったりしても、必ずしも幸せになれるとは限らないのです。

むしろ危機のいま、あえて火中の栗を拾うという選択肢は、もしかするとあるのかもしれません。秋元さんは最後にこんなことを言っていました。

「みんなが、もうダメかなと思っている。でも、これはチャンスのシグナルなんです。蛇がいたり、滝があったり、みんなが危ないという場所にこそ、野イチゴはたくさんあるんです」

危機にひるんではいけません。あらためて、自分自身と向き合うことが大切なのです。コロナ禍で世界が一変しようとしているいまだからこそ、なおさら、秋元さんの言葉が強く心に響いてきます。

連載:上阪徹の名言百出
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文=上阪 徹

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