現実空間をデジタルの力でどう革新するか 「バーチャル渋谷」が示す3つの価値

KDDIプレスリリースより(5月20日/「バーチャル渋谷」のイメージ)

KDDIが展開する「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」は、5月19日、渋谷区公認のVRプラットフォーム「バーチャル渋谷」をリリースしました。このプロジェクトは5GとXRのテクノロジーによって、仮想空間上に「もうひとつの渋谷」をつくり、新たな文化を生み出すことを目指すものです。

バーチャル渋谷では、極めて精緻に渋谷駅前周辺を再現されており、動ける範囲やできることは限定的ではありますが、渋谷を訪れたことのある人なら、現地を撮影した映像かと見間違うほどのクオリティに仕上がっています。

実際の渋谷と同じような「空気感」を


仮想空間上に生活環境をつくりだすといえば、2000年代後半に一世を風靡した、米国リンデンラボの展開するVRプラットフォーム「セカンドライフ」を記憶されている人もいるかと思います。

これは、アバター(プレイヤーの分身となるキャラクター)を操作して、移動したり、他のアバターとコミュニケーションをとったり、セカンドライフ上で使用するデジタルコンテンツを売買したりできます。いまで言うと任天堂の「あつまれ どうぶつの森」のようなコンセプトの世界ですが、ゲーム空間というよりは、その名前の通り「もう1つの生活空間」として注目を集めました。

経済活動の際に使われる通貨はリンデンドルというセカンドライフ内固有の通貨ですが、現実世界の通貨に換金(リアルマネートレード)できる点にビジネスのポテンシャルが期待され、国内でも企業の参入が相次ぎました。セカンドライフは現在も運営されていますが、スタート時のような熱量はありません。

バーチャル渋谷が、セカンドライフのような生活空間を目指すのかはさておいて、明らかに異なる点があります。それは「現実空間をモチーフにしている」ことです。

VRで新たに世界をつくる際には本来制限はありません。クルマを空に飛ばしたり、物理的に不可能な形状の建築物を置いたりすることもできるわけですが、バーチャル渋谷では敢えて実際の渋谷を徹底的に再現しています。

「ハチ公」「109」といった、来訪者にとっても馴染みのあるランドマークを置くことで、VR空間に人の流れや熱量のメリハリが産まれ、それにより実際の渋谷と同じような「空気感」が形成されるかもしれません。

渋谷のように、いつ訪れても元気な若者たちであふれる場所というのは、街づくりのノウハウが詰まっており、熱量が継続することは当然の帰結です。それを丸ごとVR空間にもってくるというのは、理想の空間をゼロから設計するよりも成功率が高いと思われます。
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文=亀井卓也

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