現実空間をデジタルの力でどう革新するか 「バーチャル渋谷」が示す3つの価値

KDDIプレスリリースより(5月20日/「バーチャル渋谷」のイメージ)


「あつまれない」時代に「あつまれる」場所を


精巧に再現されたバーチャル渋谷を「散歩」していると、「もうひとつの渋谷」というコンセプトには、3つの価値があると気づかされます。

1点目は、遠隔地にいる人への価値です。観光地としての渋谷を訪問したい人が、没入感の高い仮想体験ができるということです。バーチャル渋谷はエンターテインメント・カルチャーの革新に主眼が置かれていますが、将来、街並みのみならず、小売やサービスでの体験をつくり込むことができれば、ますます大きな消費を呼び込むことができるでしょう。

2点目は、これまで渋谷に来ていた人への価値です。withコロナの時代に、人の密集する場所に行くことは難しくなりましたが、テレビ電話のようなリモートコミュニケーションだけで人間関係を維持できる人ばかりではないと思います。

共通の体験や同じ空間を共有することで人間関係は育まれます。その時に馴染みのある渋谷の空間が精緻に再現されていることは、現実空間の代替としてかなり有効であると思われます。ゲーム「あつまれ どうぶつの森」の大ヒットを鑑みるに、現実空間で「あつまれない」時代に、仮想空間でも「あつまれる」場というのは、大きな需要があると言えるのではないでしょうか。

3点目は、これから渋谷に来る人への価値です。バーチャル渋谷では、「渋谷を忠実に再現したVRに、ARでコンテンツを重ね合わせる」という実装がなされており、街中にARのデジタル看板がかかっています。このARを現実の渋谷に重ね合わせれば、現実空間に手を入れることなく、渋谷の街を拡張させることができることになります。

例えば、ARグラスをかけて渋谷駅に降りると、ハチ公像に友達が残したメモが貼り付けられていたり、店舗の前を通ると軒先にタイムセール情報が表示されたり、買おうと思っていた商品の在庫がある店舗の前でリマインドがポップアップしたり、そういった体験が提供されるわけです。

ECでのパーソナライズやレコメンデーションが、実店舗でもダイナミックに行われるとすれば、消費行動が加速することは間違いありません。

設計データのあるVRに対し、そのようなデータのない現実空間にARを高精度に適用することは当然負荷も難易度も大きく異なるわけですが、実現すればわれわれのライフスタイルを大きく変えることになります。

バーチャル渋谷のようなつくり込まれた空間では、1点目や2点目のような体験も革新的に感じられるでしょうが、「いつでも、どこからでも渋谷に行ける」というコンセプト自体は新しいわけではなく、4G時代からあるものです。しかし、3点目の「渋谷の来訪者の行動が変わり、渋谷の経済活動が非連続に拡大する」ということが実現されるのが5G時代の特徴であると考えられます(本連載の「いまだけ、ここでだけ」参照)。

コロナ禍の影響で仮想空間の価値は増しましたが、すべての経済活動が仮想空間で完結されるわけではありません。「現実空間をデジタルの力でどう革新するか」これが5G時代に考えるべきポイントとなるのです。

連載:5Gが拓く未来
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文=亀井卓也

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