アルテミス計画の目標は、月面を広範囲に探査し、2028年までに月面に長期滞在可能な拠点を築くことだ。NASAは、月に関する情報を入手するだけでなく、火星探査の足掛かりにしたい考えだ。
アルテミスの語源は、ギリシャ神話に登場する月の女神で、1960年代の月面探査計画の由来となった「アポロ」の双子の妹だ。アルテミス計画では、エンジニアリング技術を用いて月で人間が定住可能な基地を作り、将来の火星探査の拠点とすることを目標の1つとしている。
火星探査を行う上では、長期間の宇宙飛行が人体に及ぼす影響や、惑星の表面で生活や仕事を行うための居住地の作り方を理解する必要がある。アルテミス計画のもう1つの目標は、STEM(科学・技術・数学領域)がもたらすイノベーションを広く社会にアピールし、STEM分野に参画する人材の増加やリーダー育成を図ることだ。
安全を確保するため、アルテミス計画は3段階に分けて実施される予定だ。まず、「アルテミス1」では、スペースロケットと無人の宇宙船「オリオン」をテストし、「アルテミス2」で宇宙飛行士を乗せたテスト飛行を行う。そして2024年の「アルテミス3」で有人月面飛行を行う。
アルテミス計画が興味深いのは、月の南極地点を探査する点だ。南極地点には太陽の光が当たる場所と全く当たらない場所が存在し、そうした場所には水があると考えられている。水は人類にとって不可欠であり、科学者たちは月における水の歴史を把握したいと考えている。
月面で水を酸素と水素に分解すれば、酸素は人間の呼吸用に、水素はロケットの燃料に用いることができる。NASAは、民間企業から着陸船やローバーなど、月面探査に必要な機器の提供を受け、月と火星、地球の違いと類似点を把握しようとしている。
火星と月の違いの1つは、その大きさだ。もう1つの違いは、音波は月面では伝播しないが、火星の表面では伝播するという点だ。音波は空気中を伝わるが、月面は真空であるため音は聞こえない。アルテミス計画のような宇宙探査により、科学者たちは人類が異なる惑星で生活することが可能かどうかを把握できる。
月での生活環境が、地球と大きく異なることは間違いない。宇宙空間に6カ月滞在した後、2018年6月に地球に戻ったNASAの女性宇宙飛行士、セリーナ・オナン・チャンセラーは、地球のもので一番恋しかったのは何かと質問され、「地球を肌で感じることのできる風や雨、草の香りが恋しかった。これらを宇宙で再現することはできない」と答えている。