ビジネス

2020.07.07

医療AIは普及するか? アリババとエムスリーのコロナ解析AIが日本で承認




我々の競合となる、さまざまなAIを集めて医療機関に提供しようとしているプレーヤーはたくさんいます。日本で多いのは医療用画像管理システムのPACSメーカーや、医療機器メーカーといった流通に関わるプレーヤーなど。ただし彼らは自社のシステムや機器にAIを導入して、そのシステムや機器を医療機関に利用し続けてもらう狙いもあり、AIの普及が一番の目的ではないと思っています。

AIを作ること自体はそんなに難しいことではありません。より難しいのはデータを集める点です。データを集めるという点で、システムや機器を持っていることは大きな利点です。一方で、多くのAIメーカーは小さな会社で営業人員もいない。構造的にシステムや機器を保有している流通側が強くなります。

しかし、流通側が強くなりすぎると、契約期間や使える機器や規格で縛りがちになる。いまの医療機器のマーケットは5~8年単位の契約が多いですが、AIはこれからどんどんいいものが出て来ています。そういった契約ではいいAIが普及しないでしょう。

精度を高めるため、AIの多くは一つの疾患につき一つずつ開発をしています。例えば、胸部CTなら今回はコロナ肺炎、肺がん、結核、次は気胸、骨折など、一つ一つ作っていくので、最終的にAIは膨大な数になります。AIが公的保険の対象になるには、まだ時間がかかりますし、医療機関が持ち出しで使うことになります。

医療機関が自らのニーズに応じて安くて使い勝手のいいAIを選べるようにならないと、医療用AIは普及しないでしょう。そのためには、AIメーカーにもビジネス的なうまみがあり、積極的に開発を進められるようになることが必要だと考えています。

そこで、我々が目指しているのは、AIが乗っかる医療機器やシステムではなく、AIを「主役」とした環境をつくることです。どの医療機関でも使いたいと思ったものを安くいつでも利用でき、AIメーカーは医療機器の規格に縛られないで開発ができる。作ったAIを正しく使える世界をNOBORI社と作っていきたいですね。

高齢化で医療費の負担が増え続けている中で、医療の効率化や医師の診断を支援するAIは日本にとって重要な役割を果たすと思います。トップクラスの専門医が各地にいてすぐに診てもらえればいいですが、地方や小さな医療機関ではそうはいきません。意義は十分にあると思います。


杉原 賢一(すぎはら・けんいち)◎エムスリーAIラボ所長。筑波大学卒業後、リクルートで医療領域の新規事業立ち上げなどに従事し、年間最優秀営業賞、組織長賞など受賞。医療機関向けサービスを提供するDr.JOY取締役COOを経て2019年より現職。

文=成相通子 写真=帆足宗洋

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