サンフランシスコ本拠のLyricは今、物件の価格調整ソフトウェアを提供する企業として、存続を模索している模様だ。事情に詳しい関係者2人がフォーブスの取材に話した。ビジネス顧客向けに、クオリティの高い短期滞在物件をレンタルするというゴールを掲げたLyricは、その目標を諦めたことになる。
同社のCEOのAndrew Kitchellにコメントを求めたが、回答は得られていない。
Lyricはここ最近、密かに人事を刷新していた。共同創業者でプレジデントを務めたJoe Fraimanは7月1日に同社を去っていた。「業界の構造は変化し、新たな機会が生まれており、私は新天地に向かうことにした」とFraimanは述べた。
ホームレンタル市場はパンデミック後に急落し、期待の新星だったLyricは事実上の事業閉鎖に踏み切ることになった。2014年創業のLyricは、アパートのワンフロアを丸ごと借り切り、豪華な家具を備え付けた後に、ビジネス顧客に貸し出していた。2019年初旬に同社は、13都市の22のロケーションで400ユニットの物件を運営していた。
トラベル業界を根本から変えるというLyricのピッチを聞き入れた大物投資家は多く、エアビーアンドビーも2019年4月に、1億6000万ドル(約172億円)を出資していた。Tishman SpeyerやRXR Realty、Barry Sternlicht、NEA、SignalFire、FifthWall、Tusk Venturesなどの不動産業界の大手や著名なベンチャーキャピタルもLyricに出資していた。
この分野でパンデミック後に資金枯渇に直面したのは、Lyricだけではない。エアビーアンドビーも外部から20億ドルをデットで借り入れた。Lyricの競合のSonderも社員の3分の1をレイオフした後、6月に1億7000万ドルの調達に成功した。もう1社の競合のStay Alfredは5月に事業を閉鎖した。
しかし、実際のところLyricはパンデミックの以前からトラブルを抱えていた。同社は2019年に目標売上を達成できず、今年2月に社員の20%を削減していた。その後、コロナの影響が目に見え始めた3月には、100人近くを解雇していた。
Lyricの未来は今、かなり不確かだ。同社が運営する物件はニューヨークのマンハッタンの1箇所のみとなっている。同社は民泊物件の価格を把握するWheelhouseと呼ばれるソフトウェアを保有しており、その外販に乗り出す模様だが、詳細は明らかになっていない。
既に同社から離脱した共同創業者のFraimanは、不動産テクノロジー分野の新たな機会を探ると話す。米国ではここ最近、新型コロナウイルスによる死亡者数が再び増加中だが、Fraimanは「トラベル業界は、最悪の時期をなんとか乗り越えた」と述べた。
「ホスピタリティ分野にはまだ可能性が残されている。この分野では多くのスタートアップが事業を閉鎖したが、Lyricはまだ完全に事業を終えた訳ではない」とFraimanは話した。