どん底からの大逆転!すべての答えは「社内」にあった – 吉永泰之 富士重工業CEO(後編)

群馬県太田市にある矢島工業に足を運ぶ吉永。<br />秘書には「できるだけ現場に足を運ぶ時間を作ってほしい」と日頃から指示しているという。<br />getty images/Bloomberg


「FUN TO DRIVE」でいこう

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「スバルは他社さんとあまり競合しないんです」と、吉永は言う。水平対向エンジンを組み合わせたスバル初のハイブリッド車「XV」にテストコースで初めて乗るとき、吉永は開発責任者に聞いた。

「どういうハイブリッドをつくったの?」

「FUN TO DRIVEのハイブリッドをつくりました」。開発責任者が答えると、吉永は膝を打った。

「おお、いいじゃない。キャッチコピーもそれでいこうよ。FUN TO DRIVEを実感できるハイブリッド」

多くの人は低燃費が売りのハイブリッドを買い求めるだろう。しかし、XVの価値観が好きな人たちもいるのだ。巨大なマーケットではないが、小さい会社が生き残るための強みと最適な規模のマーケットを確立したのである。

「ここにスバルの生きる道が見えてくるじゃないですか」と、吉永は言う。

モノサシを少し変えて、それが本質的であれば、消費者が求める価値と合致する。

思えば、吉永が尊敬する経営者がそうだった。若い頃から役員とでも喧嘩する「やんちゃな社員」と呆れられた吉永は、「自分自身の思考の背骨はどこにあるのだろう」と、本を読み漁るのが好きだった。そこで出合った本が、アルフレッド・スローンである。1923年、GMの社長に就任し、フォードを抜き去り、世界的企業に育てた経営者だ。

「自動車は、ファッション産業だと気づいた人です」と、吉永は言う。シボレー、ポンティアック、キャデラックといったブランドを差別化し、また、さまざまな色の車を売り出した。すべて黒塗りのフォードに対抗し、大量生産を生んだ天才経営者ヘンリー・フォードに打ち勝つのだ。

「ショールームはご覧になりました? 最近、スバルはどんどんカラフルになっているでしょ」と、吉永は笑う。デザインも色も、「どんどんやりたいようにやって下さい」と、彼は指示する。「僕が社内で言っているのは『言いたいことを言っている人をとにかく潰さないでくれ』です。だって、上司の言うとおりに車を作りましたでは魅力的な車はできませんよね?」

価格と規模の競争は捨てた。同じ土俵に立てば、大火傷を負うだけだ。小さな会社の武器は人々を魅了する価値しかない。

吉永は社員にしつこくこう言い続ける。「お客様に提供できる我々の価値を絞り込み集中すること。スバルはお客様に『安心と愉しさ』を提供しよう」。こうして経営の軸を確立し、成果を出した後、11年、吉永は社長に就任したのだった。

その後、15年の数値目標を13年度に前倒しで達成。いまスバルは持続的成長を目指している。

文=藤吉雅春 写真=青木倫紀(ライト)

この記事は 「Forbes JAPAN No.10 2015年5月号(2015/03/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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