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世界38カ国、800万人が愛読する経済誌の日本版

群馬県太田市にある矢島工業に足を運ぶ吉永。
秘書には「できるだけ現場に足を運ぶ時間を作ってほしい」と日頃から指示しているという。
getty images/Bloomberg

SUVやワゴンなど次々と新作を発表するスバルの快進撃が止まらない。
業界トップの営業利益率は過去最高を記録。
しかし、富士重工は長い間、巨額の赤字を抱えて、深く沈んでいた。
末期症状を立て直したのが、吉永泰之だった。

<前編はこちら>

石田ゆり子がCMで驚いた「ぶつからない車」


軽の自社生産から撤退はしたが、ダイハツがOEMで製造する軽自動車を富士重工が販売することで販売網は維持した。同時に重要だったのは、何にターゲットを絞るか、である。

「選択と集中を図る際、差別化をするところが本質を突いていなければ、失敗してしまいます」

そう語る吉永だったが、「まじめな技術者集団」の社風のせいか、社内から出てくるアイデアは「弱点を補う」という攻めに欠けるものばかりだった。

「会社が小さくて弱点ばかりなんだから、強みを伸ばそうよ」と言い続けた吉永は、問いかけをこう変えた。

「長い間、成長していない弱小メーカーなのに、なぜスバルは潰れていないんだろうね。お客様がスバルの何かがいいと思って買って下さる。その何かをみんなで探そう」
 
かつて大手メーカーの社長らが「唯一勝てない日本車はレガシィだ」と悔しがった逸話がある。レガシィは日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞するなど高い評価と人気を得ながらも、会社にとっては少々難点があった。高コストのため、利益を出しにくいのだ。飛行機が前身の会社だけに、安全基準が非常に厳しく、技術者たちの安全にかけるこだわりがコスト意識を後回しにしていた。

では、安全へのこだわりを売りにできないか。

群馬県太田市にある技術本部に足を運んで議論するうちに、吉永の部下たちが着目したのは技術者の「ぶつからない車を研究しています」という一言だった。89年から開発を始めた「アイサイト」という衝突軽減ブレーキなどを作動させるシステムである。障害物を見つけると、自動的にブレーキがかかる。ドライバーの意識が自動ブレーキに依存しないように、衝突直前に初めてブレーキがかかる仕組みだ。99年からレガシィ ランカスターに搭載を始めたが、搭載率は全体の6%。コストの問題と「ヒットするわけがない」という意識から、研究は別の部署の空きスペースを利用して行われる有り様だった。

「アイサイトを売りにしよう」。群馬の技術本部で議論すると、「でも、安全は商売にならないと言われています」と技術陣は答えた。

「誰がそんなことを証明したの?」「自動車業界の常識だと言われています」

だが、ここに答えはあった。スバルのDNAは、飛行機を操縦するように追求された操縦感覚、ドライバーが運転を楽しめる走行性能、そしてこだわりの安全は安心感でもある。吉永たちが必死に探していた「強み」とは、自分たちのDNAにあると気づいたのだ。それが、「安心と愉しさ」というキーワードになった。アイサイトの価格を下げ、吉永はテレビCMの指示をだした。
  
「悪いけど、うちの会社が史上最大の宣伝を打っても、トヨタさんの10分の1の規模もないんだよ。お客様の印象に残らないんだから、『ぶつからない車』だけに絞ってみようよ」

ロッド・スチュワートがレガシィに乗って、外国の街並みを優雅に走るかつてのようなCMではない。女優の石田ゆり子が衝突回避する車を実際に体験してビックリする「ぶつからない車」を一斉に放映した。

すると、販売店では経験したことのない事態が起きた。次々とやって来る客が試乗をしたがるのだ。営業マンたちにとって、売れることは喜びである。「乗っていただかないとわかりませんから、是非、試乗して下さい」と、営業マンの声も自然と自信にあふれる。工場では生産が間に合わない忙しさになった。さらに北米では「安心」という価値が、ニーズを一気に掘り起こした。ファンを獲得しただけではない。米国IIHS(道路安全保険協会)が与える安全評価の認定がある。トップセイフティピックと呼ばれる認定を、業界で唯一6年連続で全車種獲得の快挙を成し遂げている。

文=藤吉雅春 写真=青木倫紀(ライト)

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