いまこそ都市政策に「音楽の力」を 世界の戦略的事例

より良いコミュニティを創造するために音楽を用いる都市も多い(Photo by Unsplash)

私たちは、毎日利用しているものを、つい当たり前に感じてしまいがちです。例えば、きれいな水。安全な水の確保に困ることのない幸運な人々にとって、水は、蛇口をひねれば出てくるものです。

このような認識は、蛇口をひねるだけで水が出るありがたさを忘れさせてしまうばかりか、単純な動作で水が出る環境を支えている複雑なインフラの存在も、ないがしろにしてしまいます。井戸から水を汲むところから始まり、濾過、脱塩、配水、浚渫、廃棄物管理に至るまでの入り組んだシステムが機能して初めて、水が飲めるのです

日常という織物に織り込まれているものに関して、それを生み出し、維持し、支えているシステムがあることが忘れられがちになります。このように、物事に対する私たちの認知と、他の認知に矛盾が生じている状態は、音楽と文化にも当てはまります。人がある歌を聴いて感動した時、それは歌のある瞬間に心動かされたのであって、その感動の瞬間をもたらすべく裏で支えている、レコード製作やマーケティングに対して感動を覚えているのではありません。

しかし、それらのシステムや働きがなければ、その瞬間は起こりえないのです。水がかれてしまうように、他のさまざまな資源と同様、音楽もまた無限の資源ではありません。教育や投資、支援をしなければ消えてしまうものです。音楽は、国境を越えた私たちの共通言語だということを踏まえると、世界中のコミュニティを支え、維持し、より良くする、音楽の力の重要性をもっと理解しなければなりません。このような考え方に基づく動きは、世界中の都市で広がりつつあり、音楽にまつわるプランニング、リソース・マネジメント、レジリエンス、志向性等を融合させた、「ミュージック・アーバニズム」と呼ばれるものになっています。

音楽を政策に取り入れる


ストリーミングの隆盛に活気づけられ、音楽業界は2018年、9.7%収益が増加しました。ゴールドマン・サックスの調査では、2030年までに業界規模は2倍以上の1310億ドル超にまで成長すると予測されています。

音楽は、都市や街など、生活のあらゆる場所に存在しています。赤ちゃんの命名式から、バル・ミツバ(ユダヤ人の男の子が13歳になる時に行われる成人式)、聖餐式、キンセアニェーラ(15歳の少女の誕生日を祝う儀式)、アザーン(イスラム教の礼拝の呼びかけ)にまで、音楽は常に私たちと共にあります。音楽の経済的、社会的、文化的価値を最大限に高めるには、土地利用や再開発、観光、教育、経済発展政策の中で、音楽について考えなければならないということを、ここ10年の間で多くの都市が認識し始めています。

この新たに生まれた分野は、音楽都市という新しい呼称をつくり出しました。音楽を単に楽しむものとして捉えるのではなく、政策に取り入れる都市、という意味です。こういった都市が、ミュージック・アーバニズムという新しい取り組みを生み出しているのです。

熟慮された計画的な政策の中で、音楽を扱うというこのアプローチは、これまでになかったものです。音楽に対する都市の伝統的な役割は、これまで主に2つの面におけるものでした。サウンドや騒音の許認可と、フェスティバルやコミュニティ・イベント、観光客向けの催し等の、音楽を体験する場を作り出すことです。
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文=Shain Shapiro, Founder and CEO, Sound Diplomacy

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