「出版界のロックスター」マルコム・グラッドウェル新作、全米150万部の理由

今回のグラッドウェルはこれまでと一味違う


一言で言えば、自己と他者とのあいだにある絶対的な壁をどう乗り越えるかというのがこの作品の主題である。主にアメリカで話題となった事件を紹介しつつグラッドウェルは、社会科学の学術研究にもとづくさまざまな理論で主張を裏づけていく。

人は相手を信用するよう初期設定されているというトゥルース・デフォルト理論、人の感情は表情に如実にあらわれるという“透明性”の嘘を暴くフレンズ型の誤謬、飲酒によって眼のまえの経験が見えなくなる近視理論、行動と場所が密接に関連しているという結びつき(カップリング)理論などをわかりやすい明快な言葉で解説しながら、グラッドウェルは私たちの日常生活の裏にひそむ真実を次々に明らかにしていく。

2019年9月にアメリカで発売された本書はたちまち話題となり、アマゾンでは当然のごとくベストセラー総合1位にランクインし、その後も何週にもわたってベスト10入りをキープした。2020年5月現在、アマゾンのカスタマー・レビューの数は2900件を超え、星の数は平均で4.3という高い評価を受けている。また、冒頭で紹介したオプラ・ウィンフリーをはじめ、数多くのアメリカのインフルエンサーたちが本書を絶賛している。

ビッグ・アイデア、ビッグ・ブレインの持ち主


著者のマルコム・グラッドウェルについて簡単に紹介しておきたい。ジャマイカ人心理療法士の母、イギリス人数学者の父の子として1963年にイギリスで生を享けたグラッドウェルは、その後カナダで育ち、1987年にジャーナリストとしてアメリカで活動を始める。2000年のデビュー以来の書き下ろし作品は5作のみという非常に寡作なノンフィクション作家ながら、全作品が国内でミリオンセラーとなっており、アメリカでは知らない人がいないのではないかと思われるほどの超有名ジャーナリストである。

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2000年発表のデビュー作『ティッピング・ポイント―いかにして「小さな変化」が「大きな変化」を生み出すか』(The Tipping Point: How Little Things Can Make a Big Difference)は、マーケティングに焦点を当てた本で、商品が爆発的に売れる分水嶺となる「ティッピング・ポイント」について解説した(のちに邦題は『なぜあの商品は急に売れ出したのか―口コミ感染の法則』、その後『急に売れ始めるにはワケがある―ネットワーク理論が明らかにする口コミの法則』へと変更された)。

2005年の『第1感―「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』(Blink: The Power of Thinking Without Thinking)では社会心理学に注目し、理屈や経験に頼らない人間のひらめきの大切さを訴えた。

第3作となる2008年発表の『天才! 成功する人々の法則』(Outliers: The Story Of Success)では、生まれつきの天才など存在せず、誰しも1万時間に及ぶ努力を続けなければプロにはなれないと主張。グラッドウェルがこの本で提唱した「1万時間の法則」はアメリカのみならず全世界で社会現象を巻き起こした。

前作となる2013年の『逆転! 強敵や逆境に勝てる秘密』(David and Goliath: Underdogs, Misfits, and the Art of Battling Giants)では、弱い立場の者が絶対的な勝者に勝つための戦略について説いた。「次にどんなテーマの本を書くのか」がファンのあいだで活発に議論される人気作家であるグラッドウェルは、アメリカでは「出版界のロックスター」「ビッグアイデア、ビッグブレインの持ち主」などと称されることが多い。本書を紹介した日本のネット記事では、「ノンフィクション版の村上春樹」のような存在だと説明されていた。 
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