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中身はそのままでクリアした品質の信頼


そもそも「宇宙日本食」とは、国際宇宙ステーション(ISS)の日本ブース「きぼう」に長期滞在する日本人宇宙飛行士用に開発された宇宙食を言う。この宇宙日本食の認証を受けるには、栄養成分検査があり、常温での1年半の保存試験、厳格な容器の品質など多くの基準に合格しなければならない。

「大変だったのはJAXA基準の資料づくり」と小菱は振り返えるが、「ん?資料?」と思わず聞き返した。

「はい、まず粉ミルク自体は、市販品と同じなんです。宇宙食には、重量のために液体ではなく粉状であるとか、サイズであるとか当然厳しいハードルはいくつもあります。しかし本商品に関しては、そもそも賞味期限が常温で18カ月など日本宇宙食になり得る条件が満たされていたことや、宇宙でより効率的に栄養を摂取する必要があることから、JAXAさんの依頼があったという経緯があります。宇宙用だからといって何か手を加える必要はありませんでした」

もっとこう…いわゆるものづくりの苦労というか、宇宙飛行士のために成分を調整して…などを想像していたが、逆に驚きだった。確かに、加工食品が宇宙に行く場合、例えばラーメンやカレーなどは形状から調整しなければならないが、栄養素材そのものと言える粉ミルクはそのままで問題ないということだ。

「大人のための粉ミルク「ミルク生活」は普段不足しがちなカルシウム、鉄分、普段の食事で摂取することが難しいオリゴ糖などが入っており、まさにISSで作業する宇宙飛行士の方の栄養をサポートするものです。だから依頼をいただいたのだと思っております」

ミルク生活の商品とJAXAからの認証の証書の写真
写真右上の箱と缶のものが市販品

母親の初乳中に多く含まれるラクトフェリンは、赤ちゃんを守る成分でもあるが、大人にとっても大切なもの。1986年に世界で初めてラクトフェリンを配合した粉ミルクの開発に成功したのが森永乳業だ。また、生きたまま腸まで届くビフィズス菌BB536や、健康力をサポートするシールド乳酸菌®、中鎖脂肪酸、ミネラル、鉄がこの商品には十分に含まれている。

特にカルシウムは無視できない。微小重力の宇宙では骨への負担がかからないため、骨からカルシウムが自然に放出されるのだ。骨粗鬆症患者の約10倍の速さで骨量が減少するというから大変だ。

そして最も苦心したのは、書類などの手続きだった。

「既存の商品を宇宙用パッケージに移し替える中〈スプーン〉1本の管理方法についても殺菌など厳密さが求められ、それを詳しく記載する必要もあり、提出した資料は合わせて1000ページを超えるものになりました。厳しいチェックがあるからこそ安心してISSへ届けられるので、必要性を感じつつも、やはり大変でした」

ようやく苦労話を聞ける──と思ったが、殺菌などの管理も、森永乳業の基準はJAXAを下回るものではなかった。つまり、本当に事務的な手続きが最も大変だったということだ。

文=上沼祐樹

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