言語空間でのコンピュータの可能性が公になったのは2011年のことだ。IBMの人工知能(AI)ワトソンが人気クイズ番組「ジェパディ!」のチャンピオン2人を打ち負かしたのだ。ワトソンは数字だけでなく、系統立った流れや時間、近接性、因果関係、分類などの要素とその繋がりを把握することにより、この対決に勝利した。
こうしたAIを活用することにより、クイズ番組で勝利するよりもはるかに大きなことを実現できるかもしれない。
──コンピュータは人間の投資アナリストを打ち負かすことができるのか。
チダナンダ・カチュア(44)がこの命題を解くヒントを得たのは4年前、ビジネススクールでヘッジファンドの授業を受けていたときだった。カチュアはエンジニアとしてインテルに勤務する傍ら、MBA取得を目指して、平日夜と週末にカリフォルニア大学バークレー校で学んでいた。厳密な財務データと、年次報告書やニュースなどのざっくりとした情報を混在させることにより、強力なツールを作り上げられるのではないだろうか。彼はそう考えた。
カチュアはビジネススクールのクラスメート2人にこのアイデアを持ちかけた。3人は資金を出し合い、さらにエンジェル投資家から73.5万ドルの出資を受け、上場投資信託(ETF)の助言会社、エキュボットを立ち上げた。また、自社のAIサービスの力を宣伝したいIBMから、ソフトウェアとハードウェアの購入代金12万ドルを借り入れることにも成功した。
2年前、エキュボットは人工知能が運用する「AIパワード・エクイティETF」を開始した。ポートフォリオは1日1回更新される。18年には外国株ETFにも進出し、「AIパワード・インターナショナル・エクイティ」を始めた。
エキュボットのシステムにはニュースやブログ、ソーシャルメディア、証券取引委員会(SEC)開示情報など、1日あたり130万件ものテキストが入力される。こうしたテキストはIBMのワトソンによって精査され、選別されたファクトが100万個のノード(結節点)で構成されるナレッジグラフ(構造化された知識ベース)に送られる。
結び付けられるそれらのドット(点)は、一企業でもあるし(1万5000社中の1社)、キーワード(「FDA」など)や経済要因(「原油価格」など)である可能性もある。点と点を結びつける矢印には1兆通りもの可能性がある。脳内のニューロン結合を模したニューラルネットワーク内でトライ・アンド・エラーを繰り返し、重要な意味を持つ矢印に重みを付加する。そして入力データの中のどの要因が1週間後や1カ月後、1年後の株価に反映されるのかを把握するため、手探りで進んでいく。
忙しい日には、エキュボットがこなす演算が500兆回に達することもあるが、それを支えるのがエヌビディアのグラフィックスチップだ。こうした半導体は元々、動きのある画像のさまざまなパーツを同時に処理し、ゲームをスムーズに動かすために設計されたものだが、ニューラルネットワークの並行的演算の集中的な処理作業にも適しており、アマゾンがエキュボットや他のAI研究機関に貸し出しているコンピュータ・センターの処理能力を支えている。