PR戦略と行動指針が問われる、「Black Lives Matter」と企業の責任

1968年のメキシコ五輪の表彰台で、国歌が流れる間、金メダリストのトニー・スミスと銅メダリストのジョン・カーロスが人種差別への抵抗を表す「ブラック・パワー・サルート」をおこなったシーンを型取った銅像。銀メダリストのピーター・ノーマンもこの抵抗運動に賛同した(「国立アフリカンアメリカン歴史文化博物館」にて筆者撮影)

ジョージ・フロイド氏の殺害を一つのきっかけに米国で活発化し、世界中に広がった人種差別への抗議デモと「#BlackLivesMatter」のオンライン・ムーブメント。パンデミックで日常生活の変化を余儀なくされ、人々が共通の不安と不満をかかえているという状況が、世界的な共感と団結を高める一つの要因となった。

一方で、米国の黒人にとってこれは、にわかに浮上した課題ではない。4世紀にわたって彼らが闘争してきた人種差別と不当な刑事司法の課題に、ようやく世界が動き出し始めている。

企業の社会的責任の本質が問われる


5月25日のフロイド氏の事件発生後、マスメディアやSNSを通じて残忍な殺害映像や抗議活動の様子が拡散していた6月2日の火曜日、黒一色の画像に「#BlackOutTuesday」のハッシュタグを添えた投稿がSNS上に溢れた。これは、#BlackLivesMatterの抗議運動に連動した、黒人に対する差別と警察による残虐行為への反対を表す、オンライン上での意思表明だ。

個人だけでなく、多くの企業も参加することで団結のメッセージを発信したが、大企業が支援と寄付を表明し、様々なブランドがSNSを通じた意思表示をすることに対しては、重要な情報発信を阻害するものだという懸念の声や、単なるパフォーマンスでしかないという批判の声もあがった。

しかし、多くのB2C企業を支えるミレニアルとZ世代は、社会、環境、人権に対する課題意識が大きく、企業に対しても「地球市民」としての社会性やインクルーシブな価値観を持った行動を期待している。つまり、企業がこのムーブメントに対して「No Action」であることは歓迎されない。

「We Generation(Gen We)」とも呼ばれるこの世代にとっては、企業が発する社会的なメッセージがオーセンティック(本物)かどうかが重要だ。外向けの意思表示と、組織内の人事や労働環境、バリューチェーンにおける戦略に矛盾がある企業は、批判の対象になりかねない。
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文=MAKI NAKATA

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